小塚崇彦か高橋大輔か ソチ五輪代表を巡って起きる議論
泣きながら笑っていた。高橋大輔の複雑怪奇な表情。 『笑い』はミスをしても惜しみない拍手を続けてくれたファンへの気持ち。そして『涙』は満足のいかない滑り、不完全燃焼……己のスケート人生は、ここで終わってしまうのか……そんな心の嘆きが聞こえてきそうな慟哭(どうこく)に思えた。 <男子フィギュア>高橋大輔はフリーで逆転は可能だったか
舞台裏でテレビのインタビューアーにマイクを突きつけられると、嗚咽が止まらず喋れない。心境を言葉にするには、一度、奥に引っ込んで仕切りなおさねばならなかった。 「自分の演技ができなかった。それが一番悔しい。ミスを重ねていくごとに“これで終わったのかな”という気持ちが強くなった。自分自身への情けない気持ちと応援してくれた皆さんにパワーを返せなかったことが悔しい……でも、これが自分の実力。受け止めたい。僕のスケート人生で一番苦しかった全日本でした。その厳しい壁を乗り越えられなかった自分自身に対して、もっとできるはずの自分がいるという気持ちもあるんですが……それができなかったことが悔しいんです」 右手は血で赤く染まっていた。転倒した拍子にカットしたのだろう。11月に右足の脛を痛め、大会の1週間前まで満足な氷上練習はできなかった。陣営は直前まで棄権を検討してほどだった。ショートの滑りには、その右足の怪我の影響がモロに出たが、それでもフリーのプログラムには4回転ジャンプを2つ入れた。試合後、コーチからは「1回で良かったんじゃないか」と言われたが、試合に勝つため の冷静さよりも高橋の「逃げたくない」という気落ちが上回っていた。 ビートルズナンバーが流れ出した初っ端にその4回転ジャンプに失敗して転倒した。それでも続けてトライした4回転は両足着氷となってしまう。2つ目のトリプルアクセルでは手を着いた。だが、高橋の演技に“あきらめ”はなかった。ステップやスピンにシークエンス。世界が認めている構成点(芸術点)につながる演技には、鬼気迫るほどのエネルギーが溢れていた。