伝説の元養護教諭が実現した「不登校ゼロ!」 チーム学校の実践とは 郡中小(伊予市)
不登校の児童生徒が増え続けている。2023年度は全国で約34万6千人と過去最多を記録。県内は3475人で前年度より3割近く増えた。文部科学省が23年5月にまとめた不登校対策プランの中には、教員だけでなく、カウンセラーなど多様な人材と連携する「チーム学校」による支援推進が盛り込まれたが、伊予市の郡中小学校では、それ以前の19年ごろから不登校児童へのチーム支援を本格化している。 中心的役割を果たしていたのは、当時養護教諭だった矢野多美子さん(62)=現在は伊予市教委巡回教育相談員。このほど愛媛大で開催された「チーム学校スペシャリスト養成講座」で、不登校児童ゼロを実現した「伝説の教諭」として紹介された。郡中小での実践と成果とは、どのようなものだったのか。 ■「保健室なら登校できる」 10月初旬、愛媛大で行われたチーム学校スペシャリスト養成講座のテーマは「不登校を考える~足し算の関わり方を目指して」。学部生や教職大学院生、現職・再任用教員に加え、教員志望の伊予高校、松山聖陵高校の生徒ら約60人を前に、矢野さんはこう切り出した。 「私自身、不登校に関する専門的知識があるわけじゃなく、試行錯誤しました」 試行錯誤の出発は保健室登校の受け入れだった。「学校に行くことができず校門で泣き叫ぶ児童に困り果てている母親。でも、子どもが『保健室なら行ける』というケースがある」と話す。児童は常時保健室にいるわけではなく、教科によっては教室に戻れる場合もある。そんな子どもたちが徐々に増え、多い時で十数人に膨らんだという。 心がけたのは「YES BUT FIGHTの法則」。YES=まず本人の話を聞いて感情を受け入れる。BUT=その上で希望や依頼の形でメッセージを伝える。FIGHT=励まし背中を押す。 ■県内随一の大規模校 矢野さんが郡中小で勤務したのは2017年4月~23年3月の6年間。全校児童千人を超す県内一の規模で、通常1人の養護教諭は2人配置されていた。「複数だったし、もう1人の先生が協力的だったから不登校児の個別対応ができた」と振り返る。 同時に校内で共通理解を図るための取り組みにも力を入れた。チーム学校の第一歩だ。 情報交換シートによる担任との連携、生徒指導の先生との情報共有、そして、養護教諭、学級担任、学年主任、生徒指導主事、管理職が集まり、児童一人一人の事例をもとに支援策を検討するケース会議だ。 「横、縦のつながりを作ることが大事。担任が保健室に子どもの様子を見に来たり、養護教諭と情報交換したりして徐々に信頼関係が構築できた。何より管理職の理解が大きく、関わる先生らとの連携ができていった」と変化を語る。 ■不登校児童ゼロを達成! 「週に1回だけでもいいから」と保護者にも保健室登校をすすめた結果、20年度、21年度には年間30日以上欠席する不登校児童はかなり減少。伊予市教育委員会によると、22年度はついにゼロとなった。
愛媛新聞社