「近づかれてしまったら負けなんだよ」…北海道の"ヒグマハンター"「命のやり取りを緊迫現場」密着撮
「山の送電線の点検をする北海道電力の作業員や、鳥獣の生態を調べる研究者をヒグマから守るのが俺の仕事さ」 【画像】緊迫撮!ベテラン猟師と"ヒグマ"の「命のやりとり」現場写真(写真10枚) 北海道帯広市在住の野々村信行さん(72)は、狩猟歴46年というベテランハンターだ。担当エリアは十勝地方。山で作業をする人が安全に作業できるよう、ライフルを手にクライアントの護衛をするいわば「用心棒」の役割を企業に頼まれ、ここ10年ほど従事している。 ヒグマを仕留めることより、クライアントの命を守るのが最優先のため、ヒグマと遭遇したらまずは大声を出し、それでも近づいてくれば威嚇射撃をして追い払う。ヒグマとの戦闘は最終手段。それほどリスクを伴うというのだ。 「近づかれてしまったら、負けなんだよ」 つい最近も、護衛をつけずに伐採した樹木を木材にする造材作業をしていた作業員がヒグマに襲われて大ケガをしている。野々村さんは今年に入って既に5~6頭のヒグマに遭遇しているという。 夏季は山での作業が増えるため、野々村さんには月の半分ほど護衛の依頼が入るという。護衛をするにあたり心がけていることは何か。 「まずは、熊の習性を理解すること。熊を撃って『倒した』と思っても、安易に近くに行くと急に襲いかかってくることがある。『弾が命中したから大丈夫』と油断して襲われるハンターが多い。倒れていても必ずもう1発撃たないといけないんだ。山の地形を熟知することも大事だね。足腰も強くないとダメだ」 野々村さんは72歳とは思えない体力で傾斜のキツい山を、周囲を警戒しながら軽々と登っていく。 不運にも護衛なしで熊に遭遇した場合、どうすればいいのだろうか? 「後ろを向いて逃げたら襲われる。武器になるようなものが無ければ、熊から目を逸らさずに後ずさりするしかないね」
今年は人間だけでなく、家畜もヒグマに襲われる被害が相次いでいる。 「今年、3頭の子牛がヒグマにやられました。こんなのは初めてです」 足寄町(あしょろちょう)で3代にわたって黒毛和牛の繁殖を行っている兼古照夫さん(45)によれば、子牛の1頭は内臓を食べられた状態で見つかり、2頭は行方不明。母牛の体にはヒグマの爪による傷跡があったという。「牛は警戒心が強いため、これまで熊に襲われることは滅多になかった」と兼古さんはうつむいた。 円安、ウクライナ戦争の影響などによる飼料の値段の高騰で廃業する畜産業者が多いなか、手塩に掛けて育てた牛を失うことは大きな痛手だ。 陸別町で酪農を営む大沼勤さん(52)が所有する飼料用の広大なトウモロコシ畑も、ヒグマによる被害を受けた。ヒグマは畑を囲う鉄柵を乗り越えて畑に侵入。柵はヒグマの重みでグニャリと曲がっており、畑には食い荒らされたトウモロコシの残骸が散乱していた。4mの高さまで成長するトウモロコシ畑にヒグマが身を隠していることがあり、収穫作業は命懸けだという。 「熊を殺すのはかわいそうという意見も理解できるけど、ここで生活する者にとっては死活問題だから……」(大沼さん) 野々村さんと別れた後、私はベテランハンターの黒川光雄さん(68)の運転する車に乗り、鹿追町(しかおいちょう)の山中でのヒグマ猟に同行させてもらった。十勝地方でもとくに熊の多い鹿追町だが、狩猟歴40年の黒川さんも今年のヒグマ出没の多さには驚いているという。 「今まで、車で林道を移動していて熊に出会うことなど滅多になかった。一日で熊に2回遭遇して2頭撃つなんてありえなかったよ」