Age Factory、日比谷野音ワンマン。怒涛の通過点の中、彼らが未来へ引き連れていくもの
奈良出身の3ピースバンド、Age Factoryが、〈Age Factory presents "twilight 2024"〉を9月1日に日比谷野外大音楽堂で開催した。その日の模様をレポートする。
今の彼らにむやみな攻撃性や排他性はない。ただ、そう思っていた過去も認められる
最後、アンコールで清水英介は野音についての思い出を語っていた。昔、日比谷に〈閃光ライオット〉を観に来たことがある。いつか自分もここに立ちたいと思っていた。今いるのは夢じゃない――。私が知る限り、奈良在住の彼らが、都内会場への具体的な思い入れを語るのは初めてのことだ。 今、Age Factoryは怒涛の通過点にいる。転機はまばゆい歌をたっぷり揃えた最新アルバム『Songs』だが、さらにすごいのはライヴの進化。怒りの爆音、汗まみれの正面衝突から、光の洪水で踊る解放の空間へ。泥臭さを極力排除したステージは圧倒的に美しく、4月のZepp DiverCity公演を観た直後は、興奮のあまり〈これを観てしまうと他はほとんど色褪せる〉とレポに書き殴っていた。 本誌の清水英介インタビューによれば、今の変化は「青年、少年期が完全に終わった」こと、そして「誰かを蹴散らしたりする感覚はもうなくて、友達は踊らせたい」と思うようになったことが要因だ。ステージのみならずフロアまで美しく照らしたいと思うのは当然だろう。ただ、この日比谷野音公演が終わったあと、彼らが用意するのは全国31ヵ所を巡るライヴハウスツアーである。いわば以前の、汗まみれの正面衝突に戻るスタイル。昔とは何が違って何が変わらないのか。今の彼らは、その確認をまず求めていたのかもしれない。 開演前は豪雨。10年前の1stEPで〈最悪な事だけ覚えていたい〉と綴っていた彼らの心模様みたいである。覚悟して雨に打たれるばかりだが、クソな天気だ、ざまぁねぇなと笑う顔がどこにもないのは印象的だった。英介は開口一番「最高の日にしよう」と柔らかく宣言し、新曲を連打したあと3曲目には「向日葵」を投下。過ぎていったあの夏を思う名曲に対し、客席からは〈これぞ俺たちの夏!〉といった大合唱が沸き起こる。そうして「向日葵」が終わった直後から、ゆっくり雨はやんでいくのである。嘘みたいだ。 新曲は意外と少ない。しんみりと響く歌もの「Peace」や、どこかメロウな「Yellow」など、寂しさと怒りの間で揺れていた中期の曲が中心である。ただ、それでも特筆すべきは、多くの楽曲に〈夏が過ぎる〉〈あの日々〉などの言葉が散らばっていること。根幹は「向日葵」の延長上であり、清水英介が目に焼き付けてきたイメージは昔からほとんど変わっていないようだ。 中盤、JUBEEと爆音を鳴らす「AXL」、yonige牛丸ありさと唄う「ALICE」の他、10日前に配信されたばかりの新曲「may」をlil soft tennis本人と共に披露したのは大きなトピック。共にステージに立ってくれる友達がたくさんいる。そのこと自体が初期とは大きく違うのだ。ここから『Songs』の曲へ、みんなの歌へと続く流れなら、よくある大団円のはずである。 だが後半ブロックの幕開けは「プールサイドガール」。まだ10代だった英介が書いた1stEP収録曲で、〈明日なんて死んでくれれば〉という歌詞が耳に刺さる、ナイーブな少年期の歌である。そしてまた、世界中を敵に回すようなこの曲のサビが、実は〈踊ってくれ 君とここで/笑ってくれ 僕とここで〉であったことに今さらハッとした。大切な相手と認められる人数が変わっただけだ。歌の中心は何も変わっていなかった。そして、観客全員とは言わないが、ごく初期の楽曲にも拳をあげ、我が事のようにシンガロングしている熱心な理解者が、今は間違いなくバンドの支えになっているのである。 急きょ曲順を変更した「TOMBO」以外は盛り上がる定番とは言い難い。アンコールも1stEPの「真空から」を選ぶなど、歩んできた道をあらためて辿るセットリスト。照れや気恥ずかしさがあればできないことだ。もちろん今の彼らにむやみな攻撃性や排他性はない。ただ、そう思っていた過去があったことも認められる。冒頭に書いた野音への思いも、今だから素直に話せたのだと思う。夏の終わり、野音で見るAge Factoryは、青くねじくれたものも優しく包み込む包容力の塊として存在していた。 手にした新境地は過去の否定とイコールではない。全部を引き連れていくし、全部いい未来に変換してみせる。すでに見えた気がする。ここから始まるライヴハウスツアーは、ただの正面衝突とは違う、汗と愛にまみれた共有になっていくのだろう。 【SETLIST】 01 Party night in summer dream 02 Shadow 03 向日葵 04 OVER 05 Peace 06 Dance all night my friends 07 Blood in blue 08 Yellow 09 Everynight 10 HIGH WAY BEACH 11 AXL feat. JUBEE 12 ALICE feat. 牛丸ありさ 13 may feat. lil soft tennis 14 プールサイドガール 15 kicks night 16 autumn beach 17 疾走 18 君、思ふ頃 19 Mother 20 TONBO 21 Sleep under star ENCORE 01 真空から 02 See you in my dream
石井恵梨子