1000万円超を稼ぐ20代船員も登場…「LINEもYouTubeも見れない」マグロ漁船を変えたベテラン漁師たちの奮闘
日本人が食べるマグロの刺し身の7割は、遠洋漁業によって獲れたものだ。だが今、マグロの遠洋漁業は存亡の危機に瀕している。時事通信社水産部の川本大吾部長は「日本人船員は過去20年で8割も減った。船主は洋上でもネットが使えるように衛星通信サービスを船に導入するなど、若手漁師定着に向けて対策を進めている」という――。 【画像】YouTubeチャンネル「japantuna」より ■日本の刺し身用マグロの7割を支える遠洋マグロ漁 真夜中、漆黒の海へ船を出し、荒波に揉まれながらマグロを狙う漁師たち。年末年始、テレビの特別番組では、青森・大間の漁師が一獲千金の大モノを求め、海と格闘する様子が紹介されるのが恒例だ。マグロ漁といったときに思い浮かぶひとつに、このイメージがあるだろう。昨年12月下旬には、かつて東京・豊洲市場(江東区)の初競りで3億円を超える一番マグロを釣り上げた漁師が、漁船の転覆により命を失った。まさに危険と隣り合わせの仕事だ。 一方、マグロ漁にはもうひとつのイメージがある。 「借金を返せないのならマグロ漁船に乗れ!」 「内臓売るか、それともマグロ漁船に乗るかだ!」 マンガやドラマあるいはコントなどの中で、こうしたセリフを一度は見聞きしたことがあるはずだ。 この場合に想像されているのは、小型船に乗って1~2人で出漁する大間のような近海マグロ漁ではなく、複数人で船に乗り込み、長期間にわたって世界中の海を回る遠洋マグロ漁だろう。 水産庁や業界団体などによると、メバチマグロをはじめとする日本の刺し身用マグロ類の7割以上は、遠洋マグロはえ縄漁によってまかなわれている。日本人のマグロ好きを支える、重要な仕事だ。だが今、遠洋マグロ漁は深刻な漁師不足により、存続の危機にあえいでいる。
■日本人の船員数は20年間で5分の1に減少 前述の通り、「遠洋マグロ漁業=長期間にわたって過酷な労働現場で奴隷のように働かされる代わりに大金を得られる職」という都市伝説はまことしやかに流布されている。 近年も人気アドベンチャーゲームの実写ドラマや、ドラマ化された人気マンガなどにおいて、借金返済にあえぐ登場人物に向かって「マグロ漁船に乗って金を返せ」といったセリフが吐かれるシーンが登場。定番として悪気なく使われがちな言い回しだが、職業に対するイメージダウンにつながっているのは確かだ。 そういったフィクションや風説の影響もあり、遠洋マグロ漁師は減少の一途をたどっている。2024年現在、日本人の船員数はおよそ820人。20年間でなんと5分の1に激減した。半年以上の航海には、船長や漁労長をはじめ総勢二十数人の乗組員が必要なため、インドネシア人など外国人の船員を確保しながら操業しているのが現状だ。船員不足などにより先行きが見えず、中には漁船を手放すオーナー(船主)もいるという。 船長など日本人の乗組員の高齢化も進む。今はまだどうにかしのいでいるが、若いマグロ漁師が経験を重ね、担い手として育たなければ、日本の遠洋マグロ漁業の存続が危ぶまれる状況だ。 こうした状況を打開し、マグロ漁師を目指す若者を確保しようと、漁業団体は近年、さまざまな作戦を展開している。 ■給与や待遇を詳細解説、船内の生活風景も公開 なかでも特に注力しているのが、ネットやテクノロジーの活用だ。 遠洋マグロ漁などの漁業者で組織する日本かつお・まぐろ漁業協同組合(日かつ漁協)は、マグロ漁師のイメージアップに向け、2021年3月からYouTubeチャンネル「japantuna」で、遠洋マグロ漁のリアルな操業風景や船内の様子などを紹介している。投稿のタイミングは不定期だが、これまでに50本を超える動画が公開されている。 動画では、船員たちが協力しながらマグロが掛かった縄を回収し、船内に引き上げる作業(揚げ縄)や、船内のさまざまな設備や船員らの食事風景、休憩時の様子など、いろいろな視点から遠洋マグロ漁師の生活ぶりをうかがい知ることができる。 このほか、遠洋マグロ漁師になるためのさまざまなアドバイス、さらには給与や待遇面などについて詳細に説明する動画も投稿されている。 実際に動画を見た若者からは、「マグロ漁の悪いイメージがなくなり、憧れるようになりました。ぜひ自分も挑戦してみたいです」「自分でもマグロ漁師になれると思いました。小さな頃からの夢を叶えたいです」といった反応があり、一定の効果はあるようだ。