DEZERT千秋、ニューアルバムで飼い慣らすことにした不安とは
DEZERTのニューアルバム『The Heart Tree』は、結成12年目にしてメジャーデビューを果たすバンドの所信表明のような一枚だ。
すべての詞曲を手がける千秋(ヴォーカル)が〈心〉をテーマにした本作には、露悪的な表現や言動ばかりにフォーカスされてきた彼とは対照的な〈優しい千秋〉がここにいる。自分のことが大嫌いで、生きる意味を見出せなくて、視界不良の人生をバンドで解消しようともがき続けてきた彼が、諦念と引き換えに手にしたものがあるのだ。インタビューでも「友達はいない」と公言していた彼だが、そんなことはないよ、と言いたい。今、彼が育て始めたばかりの〈心の木〉はやせ細っていて頼りないけど、それを支えてくれるメンバーがいる。自分ひとりじゃ光合成ができなくても、みんなが見守ってくれるはず。このアルバムを手がかりに、いつか〈心の木〉がキレイな花を咲かせてくれることを願っている。
思春期の頃からずっと世界が曇ってたんですよ
ーーこないだ別冊(註:『別冊 音楽と人×DEZERT』)の取材を4人でやったけど、なんかいい空気感だったなと。 「この前も4人で居酒屋に行きましたよ。仕事の話ですけど」 ーー仲いいですね。 「でも記憶にないぐらい久しぶりですよ。スタジオではいっぱい話すけど、4人だけで呑みに行くのは。しかもみんないい歳になったんで、お互い気を遣いつつ、傷つくようなことをわざわざ言う必要もなく、大人の集いって感じで。会話のネタがなくなったら『これ、味ないね』とか料理の話で繋いだり(笑)」 ーーははははは! 「あ、居酒屋の会話ってこうやって繋ぐんだ、って思った」 ーーアルバムも4人の一体感を感じる作品になりました。しかも自分以外の誰かに思いを馳せたり、他人の幸せを願う千秋くんがここにはいて。そういう意識の変化はいつ頃からあったんでしょうか。 「いつっていうのは特にないです。でも結果的にそう思うようになったのは、諦めがデカかったというか。〈わかってほしい〉の先には不幸しかないんですよ」 ーーそうですか? 「もし仮にわかってくれる人がいたとしても、そのあとどうするんだ?と。例えばプライベートでものすごく僕のことをわかってくれる女性がいたとしても、それで幸せになれるわけじゃない。そこからその人とどう付き合っていくか?という別の問題がスタートする」 ーー当たり前です。 「でも僕はずっと〈わかってくれる人〉を求めてたんです。そういうライヴを散々やる中で〈あ、今日はわかってもらえた〉っていうライヴもあったけど、そのあと何も起きないことに気づいて。その日は嬉しくても、次の日それで気分が晴れてることもないし、何かが変わるわけでもない。むしろ違う悩みがどんどん出てくる。例えば僕、SNSを4年ぐらい前に復活させたんですけど、昔は俺がMCで言ったことを『千秋さんはこう言いましたけど矛盾してますよ』とか『前と言ってること違うじゃないですか』とかメッセージが来て、すごくイライラしたんですよ」 ーーMCで思いついたこといろいろ言うからね。 「たぶん伝え方が下手くそな自分が悪いんですけど。しかもウチのファンってみんな長文を送ってくるんですよ。もはやポエムみたいにドラマチックな文章で(笑)。で、そういうことにイライラしたり〈なんやねん〉ってなるのはやめようと。そこはもう諦めて〈こういう考え方もあるのか〉みたいな」 ーー諦めてみてどうですか。 「何の解決にもならないけど、ひとまず楽にはなりました。〈今日は最低でした〉みたいなメッセージ送ってきても、グッとこらえて。だから俺、ファンクラブのブログに〈今日のライヴ悪かったっていう意見送ってくるな〉っていう下書きがいっぱいあるんですけど」 ーーははははははは! 「それを上げないでガマンして、〈そんなこと言わないでまた観に来てよ〉って思うようにしてます。そう思えば少しだけ感情の波が収まることを知ったので」 ーーで、自分が幸せになるために誰かの幸せを願うようなアルバムが出来上がったと。 「キレイなアルバムになったなって思います。無理やり尖ってる曲もないし、優しいし。不安を無くすことはできないけど、それはもう一生できないことだってわかったから」 ーーもともと千秋くんは不安を無くすためにバンドを始めたんでしょうか。 「思春期の頃からずっと世界が曇ってたんですよ。視界がぼやけてるというか、そういう感覚があって。でも大学に行けばそのモヤモヤも晴れるかと思いきや、全然そんなことなくて。しかもその視界を晴らそうとすることもなくスルーしてる人たちが周りにいっぱいいて〈あ、みんな曇ったまま生きていくんだ〉って。そのまま就職して、家族作って、みんなそうやって生きていく。そのことに大学入って1ヵ月でわかったんです。世界ってそういうことなんだって。で、そんな時にたまたまバンドに誘われて〈視界を晴らすことができるんじゃないか〉と」 ーーバンドをやれば? 「たぶんその頃の千秋少年は、満員のフロアをステージから見る景色ってすごくいい眺めなんだと思ったんでしょうね。で、それを見たくてDEZERT組んで。そしたら『O-WESTを満員にしたら視界が晴れるよ』って言われて、じゃあって頑張ってみたけど変わんなくて。だったらO-EASTまでやってみよう、次は赤坂BLITZをやってみよう、みたいな感じでやってるうちに、今度はどんどん今までとは違う別の曇りが出てきて。〈大人ってこういう世界なんだ〉みたいな」 ーーちなみにメンバーとそういう思いを共有することは? 「なかったですね。Sacchan(ベース)と初めに出会ったんですけど、同じ目標があったから一緒にやっただけで、僕とは違う人間やし。SORAくん(ドラム)も全然違うし、みーちゃん(Miyako/ギター)はもっと違う。友達でもそういうヤツはいないです」 ーーそれはちょっと寂しいな。 「自分のモヤモヤと人のモヤモヤって同じじゃないから。みんな同じ景色を見てても、全然違うものを見てるじゃないですか。だから自分だけの問題。そこは共有しようとも思わない」