『世にも奇妙な物語』史上最も不気味な話は? 謎多き神回(4)まさかの全員ニセモノ…よく考えると怖い謎回は?
1990年に放送がスタートした『世にも奇妙な物語』。喜怒哀楽のいずれにも分類できない斬新なストーリーや心をつかむ演出と演技で、長年にわたって老若男女問わず愛されてきた。そこで今回は、同番組の30年以上にわたる歴史の中から、恐いけどなぜか笑える意味深なエピソードをセレクト。物語の内容と見どころを解説する。第4回。(文・編集部)
「AIRドクター」(2013/主演:小栗旬)
放送日:2013年5月11日 原作:小田扉「もどき」(『前夜祭』所収) 演出:鈴木雅之 脚本:森ハヤシ 出演:小栗旬、相島一之、原幹恵 【あらすじ】 「お医者さまはいらっしゃいませんか?」 ホノルル行きの飛行機の中で、突然乗組員の声が響いた。乗客の男性が突然胸を押さえて倒れたのだ。呼びかけに答えて、咄嗟に手を上げた桐原(小栗旬)は、乗客を触診。やがて男性は息を吹き返し、観客からの拍手を受ける。 しかし、桐原には秘密があった。実は彼、医者ではなくただの医学生で、医者に見られて感謝の言葉を掛けてほしいという一心で体が反応してしまったのだ。 そんな中、患者が再び苦しみ出し…。 【注目ポイント】 人間とは“演じる生き物”であり、あるのはペルソナだけだー。演出家の平田オリザがこう述べるように、私たちは常に、家庭でも職場でも何かしらの役柄を演じながら暮らしている。 とはいえ、「カメレオン俳優」である私たちも、初めて役を演じるときは不安が付きまとうものだ。ましてやそれが空の上で、人の命が関わっている状態であるとすればなおさらだろう。 本話は、『団地ともお』で知られる漫画家、小田扉の短編「もどき」を原案とした作品。脚本を務めるのはお笑い芸人の森ハヤシで、小栗旬が主演を務める。 本話のタイトルである「AIRドクター」の「AIR」には、「空の旅」という意味に加え、もう一つの意味がある。それは、「エアギター」の「エア」だ。 本話の冒頭、雑誌を読んでいた少年が、となりの中年男性を指差し、「エアギター世界一の人だ!」と叫ぶ(中年男性役は実際にエアギター世界一に輝いた金剛地武志が演じている)。男性は即座に否定するが、少年は彼がエアギター世界一の男性だと叫び続ける。 つまりこの物語、「AIR(=空想上の、妄想上の)」をめぐる物語なのだ。現に、本話の登場人物は、主人公の桐原を筆頭に、看護師、麻酔医、乗組員、果ては飛行機を操縦する機長まで、全員がニセモノだ。 作中では、そんなニセモノたちが「実は私は医者ではない」「実は私は乗組員ではない」「実は私はハイジャック犯ではない」といったナレーションととともに次々と登場し、最終的に自身に与えられた役割を見事に「演じ切る」。 そんな彼らの姿に、視聴者は、笑いを超えた不思議な感動を覚えること請け合いだろう。そういう意味では本作、ショービジネスの鉄則である「ショウ・マスト・ゴー・オン」(幕が上がったら何があっても最後まで続けなくてはならない)をテーマとした作品でもあるといえる。 ちなみに、原作の「もどき」は、本話と少し異なった物語になっている。気になった方はぜひ読んでいただきたい。 (文・編集部)
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