被災瓦で信楽焼 門前のがれき再生 素朴で力強い器に仕上げ
能登半島地震で被災した輪島市門前町の家屋の瓦が、「日本六古窯(ろくこよう)」の一つとして知られる信楽焼の食器に生まれ変わった。滋賀県内の老舗窯が捨てられるはずだった災害ごみを再利用し、能登の町並みを思い起こさせる、素朴で力強い風合いの器に仕上げた。「がれきからの再生」を目指して歩む能登の象徴として商品化し、国内外に販路を広げて復興を後押しする。 【写真】廃棄瓦の活用について話し合う小川公男さん(中央)=5月、輪島市門前町深見 能登の瓦から食器を作ったのは、明治初期創業の菱三(ひっさん)陶園(滋賀県甲賀市)。5代目の小川公男さん(58)は地震後、能登の被災者に食器を送る支援活動を続けていた。 小川さんは5月、学生ボランティアを組織して能登で活動する日本福祉大の山本克彦教授の案内で、輪島市門前町深見を訪れた。そこで、割れた瓦があちこちに山積みになった光景を目にした。 菱三陶園では以前から、破損した陶器を微粉末に加工して新たな器に作り直すサービスを提供している。能登の瓦も捨てずに再活用できないかと、住民の了承を得て6月、約3トン分の瓦を回収してトラックで滋賀に持ち帰った。 瓦と食器では材料の土も焼成温度も異なる。小川さんによると、瓦の粉末だけでは食器としての形や強度を保てず、食器用の粘土と混ぜる必要がある。 そうした条件下でも、小川さんは「できるだけ瓦の比率の高い器を作りたい」と実験を重ね、比率を3割まで高めることに成功した。黒光りする能登の瓦を意識して釉薬(ゆうやく)を調合。一部だけ釉薬を施さず、瓦の赤い土の生地が見えるデザインとした。 8月末までに、大小の皿やボウル、カップなどの試作品を仕上げ、深見の住民が多く暮らす門前町道下の仮設住宅に届けた。 食器は現在、商品化に向けた最終段階に入っている。小川さんは取引先のネットワークや人脈を生かし、全国展開する高級ホテルや国内外に数十店を持つデザイナーショップなどと納品の相談を進めている。売り上げの一部は被災地や支援団体に寄付する。 小川さんは「もったいない、との思いがきっかけだった。能登支援の大きな流れになればいい」と語った。小川さんとともに企画を進める山本教授は「寄付以外にも、購入者と被災地がつながる何らかの仕掛けを考えたい」と話した。