ワンオクTaka、“抜け殻”になった井岡一翔に見せた背中 「“もう一回やる”と言わせないとヤバい」知られざる同い年の絆
世界4階級制覇の井岡一翔(35歳・志成)が12月31日、東京・大田区総合体育館で自身としては7年連続13度目となる大みそか決戦に臨む。相手は今年7月のWBA&IBF同級2団体統一戦で0-3の判定で敗れたWBAスーパーフライ級王者のフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)だ。因縁の相手とのダイレクトリマッチで再び敗れるようなことがあれば…そんな周囲の喧騒をよそに井岡は10年来の親友であるロックバンド「ONE OK ROCK」のTakaと対談。互いのジャンルでトップを走り続けている二人だからこそ明かせる本音と二人のストーリーがあった。 【映像】親友同士が語ったエピソードの数々 それぞれの友人の導きで二人が互いを知り、出会ったのは10年以上前のこと。Takaは友人の勧めで井岡を知った。自身も格闘技に興味があり、父もボクシングファンだったというTakaが井岡に「会ってみたい」と興味を持つのは必然の流れ。一方、元世界2階級王者・粟生隆寛に連れられ横浜アリーナで行われていたTakaのライブで衝撃を受けたというのが井岡だ。粟生はTakaとの共通の知人でもある。当時は「ONE OK ROCK」という名前は知っていたが、曲は一曲も知らない。そんな状態で飛び込んだアリーナで井岡は衝撃を受けたという。 「同級生で、同世代でこのアリーナの感覚。同世代で『スゲーな』っていうのは覚えてる」 その興奮を当時のブログに記して以降、二人の交流が始まった。出会いのインパクトが強烈なら、その後のエピソードも強烈だ。 一番俺の中でエグかったのは…Takaがそう切り出した忘れられない思い出がある。 「ライブツアーが続いているときに、一翔のジムに遊びに行った。ライブ前日なのに死ぬほどしごかれるという…意味わかんないあの2時間半ぐらい(笑)。明日ライブだよって言ってるのに…同じか半分ぐらいのメニューをやらされて、次の日ライブで動けなかった。コイツ鬼だなって思った」 当の井岡は「動けるからTakaも(笑)。あとで会ったときに『一翔、あれやりすぎ』って」と笑顔で振り返ると「いや、やりすぎでしょ。飛べなかったからね、次の日」とTaka。次の日を良いコンディションで迎えたかったTakaにとってはだいぶ誤算だったようで「Too Muchです。故障です」と苦笑した。 話は一転、真面目なエピソードに。2017年12月、3階級制覇を果たし、5度目の防衛戦を前にした井岡が引退を決意した。東京に出てきた井岡とTakaは毎日のように一緒の時を過ごしたという。 「今までずっと頑張ってきたものが急になくなるという。辛さ、寂しさ、葛藤というか」 当時の井岡の様子を振り返るTaka。すると井岡も「有難いことに夢も達成したし、じゃあここでやりきることもないという浅はかな考えの中、自分の性格的にもこれがしたいと思ったら、これをしたいタイプ。(Takaが)一番理解してくれているから、いろんなところについていった」など当時を振り返る。 Takaいわく、井岡は「ONE OK ROCK」のアジアツアーに2か所を除いて帯同。その間、井岡はTakaのパフォーマンスを見て、ロスでもTakaの家に泊まるなどするなかで「ONE OK ROCKの偉大さ、駆け上がっている姿と、いい意味でも自分が落ち込んでいる。エネルギーをため込んでいる中で『このままじゃアカン』という。いろんな方たちがいて気づきはあったけど、あの時間はすごく自分の中で大きい」と感謝を述べる。 一方、そんな井岡を見守ってきたTakaは「楽しかったけど、危険だったよね」と当時は井岡に明かせなかった本音を明かす。その言葉に頷く井岡に対してTakaはさらに「俺はあれを『井岡一翔ポンコツ期』と言ってる。ちゃんともう一回コイツに背中を見せて『もう一回やる』と言わせないとヤバいなと。よかったよ。あのまま引退されていたら、何の意味も無かったからあの時期がね。あの時は本当に笑えなかった」と続けた。 復帰戦を前にしてTakaとハイキングに行き、そこで景色を眺めて復帰、さらにその後の展望を語ったという井岡。そこからの復活劇にはTakaも「すごかった。あそこからの追い上げが。とても食いたいもの食って、何もしないチャンピオンには見えなかった」。今だからこそ笑いあえる二人だけが知る苦楽のエピソードだ。 そして井岡はM・アローヨに判定勝ちを収める。「いろんな自分の中で感動した試合はあるけど、あの瞬間は一番感慨深い。忘れられない」井岡はあの試合が特別だったと語る。その言葉にTakaも続ける。 「いい意味でも悪い意味でも、一番背負ってる感じがした。今まで見てきた一翔の試合は綺麗な試合をしていた。あの試合は結構さ、はじめて一翔が顔を腫らしてるのを見た。ビックリして…でもあれがいいきっかけだったんだなと。いま思い返すとね」 そして、話は戻る。今年7月、井岡はWBA&IBF同級2団体統一戦でWBAスーパーフライ級王者のフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)に0-3の判定で敗れた。この敗戦について、Takaが持論を述べると、井岡がその考えに共感を示す。 「一翔のボクシング人生の中では第2ステップに突入した。勝つことも負けることも、意味合いとしては一緒になっていく気がする。(この発言で井岡がTakaに握手を求める)今までだったら負けることが怖い。ダメという考え方で走ってきたと思うけど、負けることにもきっと次がある。今まさに、その壁にぶち当たってるんだろうなっていう」 同級生として、第一線を走ってきた二人だからこそ分かり合えることもある。井岡はロスでの復帰戦について「いい意味で自分らしくなかった。いろんなものを背負ってるのが結果に出て、パフォーマンスとしてもよかった。ただ…俺たちの世界は結果が全て。敗者が美化されることはないと思うし、結果を残したものが全てだからキレイごとを言うつもりはない。何が悔しいかって、自分が勝ちたかったから悔しいのであって、自分がやってきたことに悔しいかといえば、それは胸を張れる。勝ち負けは自分の優越感。でも世の中に対して証明しないといけないのは、もちろん勝つこと。世界チャンピオンで居続けること。ある方に前回負けて泣いているときに『なんで泣いてるの?結果に生きてんじゃねーよ』と言われて。その言葉を聞いて、勝ち負けじゃなくて、自分がどうやりきるか。俺はどうしたい? まだ戦いたい。誰と闘いたい? 前回負けた相手と戦いたい――」 決意を固めた井岡は敗戦直後、旅先からダイレクトリマッチをマネージャーに懇願したという。その話を聞いたTakaは「なるほどね」と頷き「やられたらやり返す。それで負けたことにも意味があるし、勝ったことにも意味がある。俺も音楽をやっていて一番つらい時期だった。今までは試行錯誤の連続だったけど、試行錯誤って何のためにやっているのか? ファンのためと言いつつも自分のため。もちろん勝ち負けは興行的にもスポーツの世界でも絶対になければいけないもの。そこを理解したうえで、今回の試合は楽しくやって欲しい。戦うことはもう知っている。そこに年を重ねてきた経験値をすべて乗っけてパンチしてほしい。楽しんで」 自らに必要以上のプレッシャーをかけて戦ってきた井岡。「人間的な考えじゃなくて、動物的な直感でも全然いいと思う」ある意味開き直った井岡一翔がどんな戦いを見せてくれるのか。「その考え方を信じて試合をしてほしい」と期待を寄せるTakaはもちろん、ファンも13度目の大みそかで迎える歓喜の瞬間に期待している。
ABEMA TIMES編集部