「アバクロ」元CEO、性的人身売買の罪で起訴 BBCの調査報道きっかけに
リアナ・クロックスフォード調査編集委員、マデライン・ハルパート、ブランドン・ドレノン(BBCニュース) 米当局は22日、米アパレル大手アバクロンビー・アンド・フィッチの元最高経営責任者(CEO)とそのイギリス人パートナーらを、売春の斡旋(あっせん)と国際的な性的人身売買ビジネスを行っていたとして逮捕・起訴した。BBCの調査チームは昨年、2人が世界各地でセックスイベントを開催し、複数の男性を搾取していた疑惑を報じた。 起訴されたのは、アバクロンビー・アンド・フィッチ元CEOのマイク・ジェフリーズ被告(80)と、パートナのマシュー・スミス被告(61)、この2人の仲介人だったとされるジェイムズ・ジェイコブソン被告(71)の3人。連邦検察は、3人が暴力や詐欺行為、強制を用いて、「暴力的かつ搾取的な」性的行為を行っていたとしている。 ジェフリーズ被告とパートナーは、弁護士を通じてこれまでに不正行為を否定してきた。ジェフリーズ被告の弁護士は22日にBBCに対し、「起訴状が公開された後、内容に対して詳細に対応する」と述べた。 スミス被告の弁護士にも、BBCはあらためてコメントを要請している。アバクロンビー・アンド・フィッチは、コメントを拒否した。 (※BBCはこの問題でドキュメンタリー「アバクロの性的搾取疑惑」を制作。2023年10月にイギリスで放送した。現在、日本から視聴可能) 注意:この記事には性行為の描写が含まれます ニューヨーク州東部地区連邦検察局のブリオン・ピース検事は、ジェフリーズ被告がアバクロンビー・アンド・フィッチのCEOとしての富と権力、地位を利用し、自身とパートナーのスミス被告の「性的快楽のために男性を人身売買していた」と主張した。 ピース検事は、このカップルがジェイコブソン被告をスカウト役として雇い、世界中の男性を対象に、金銭と引き換えに性的行為を強要する「トライアウト」を行っていたとした。 ジェフリーズ被告が男性たちを承認すると、男性たちはニューヨークの同被告の自宅へ移動させられ、そこで「アルコール、バイアグラ、筋弛緩剤を摂取するよう強いられた」とピース検事は述べた。 同検事はさらに、行為に参加できない、あるいは参加したくないと言った男性たちに対して、ジェフリーズ被告とスミス被告は誰かに命令して、あるいは自らすすんで「勃起誘発物質を注射した」と主張。 ジェフリーズ被告が「この企てを支援し、その機密性を維持するために、大規模なインフラに数百万ドルを費やした」とした。これには、国際的な移動、ホテル滞在、有給のスタッフ、イベントの警備などが含まれるとした。 ピース検事は、起訴状に記載された被害者は15人だが、この企てには「十数人の男性たちが関与していた」と主張した。 BBCは昨年、ジェフリーズ被告とスミス被告が、ニューヨークの自宅や世界各地のホテルで開催したイベントで、男性参加者を性的に搾取し虐待していたという疑惑を報道した。その後、米連邦捜査局(FBI)がこの件について捜査を開始した。 ジェフリーズ被告は22日に裁判所に出頭した後、1000万ドル(約15億円)の保釈金で保釈された。ジェイコブソン被告も50万ドルの保釈金で保釈された。2人は25日に再度出廷する予定。 一方、スミス被告は勾留された。 BBCの調査では、こうしたイベントに男性たちを勧誘するネットワークや仲介人が関与する、高度に組織化されたオペレーションがあったことが明らかになった。 ピース検事は22日の記者会見で、当局は当初、メディアの報道により情報を得たことを認めた。 BBCの報道を受け、ニューヨークではジェフリーズ被告とスミス被告に対し、性的人身売買、レイプ、性的暴行の責任を問う民事訴訟も起こされた。 この訴訟ではアバクロンビー・アンド・フィッチも、ジェフリーズ被告が経営に携わっていた20年間にわたり、同被告が主導する性的人身売買に資金を提供していたとして責任を問われている。 被害者とされる人々の代理人を務めているブラッド・エドワーズ弁護士は22日、「今回の逮捕は、アバクロンビーが提供していた合法的な隠れみのの下で長年行われてきた人身売買計画により、搾取され虐待された多くの被害者が、正義を勝ち取るための大きな第一歩だ」と述べた。 また、「BBCの報道は前例のないものであり、我々の法律事務所が提出したこの犯罪の詳細を記した訴訟と相まって、今回の画期的な逮捕につながった。これは、優れた調査報道の成果だ」とした。 BBCは最初の調査で、12人の男性に話を聞いた。この人たちは2009~2015年に、ジェフリーズ被告とスミス被告が主催する性行為が関係するイベントに出席、あるいは運営に携わった。 このうちイベントに出席したという8人は、仲介人に雇われたと語った。BBCはこの仲介人をジェイコブソン被告と特定した。 今年9月には、さらに複数の男性が自身の体験を語った。中には、ジェフリーズ被告の秘書たちによって、バイアグラの液体だと聞かされたものを性器に注射されたと主張する人もいた。 ジェイコブソン被告は以前、弁護士を通じてBBCに宛てた声明で、「自分の側に何らかの強制的、詐欺的、あるいは強引な行為があった」という指摘は、侮辱的だと反論。「誰かがそのような行為をしていたことも、まったく知らない」と述べた。 ■被害の証言 BBCは、ジェフリーズ被告の元スタッフを含む十数人の関係者にもインタビューを行った。 BBCが話を聞いた男性の中には、雇われる際にイベントの性質についてだまされていた、あるいは性行為が関係するとは聞かされていなかったと主張する人もいた。一方で、性的なイベントだとは理解していたが、自分に何が期待されているかは正確には理解していなかったという人もいた。全員が報酬を受け取っていた。 また、仲介人や他のリクルーターたちが、アバクロンビー・アンド・フィッチでモデルになれる可能性をにおわせていたという証言もあった。 被害当時23歳だったデイヴィッド・ブラッドベリー氏は、仲介人のジェイコブソン被告から、オーラルセックスをしなければアバクロンビー・アンド・フィッチにもジェフリーズ被告にも会わせないと「はっきり言われた」とBBCに語った。 そして、「彼はまるで名声を売っているみたいだった。それを手にするための支払いが追従だった」と話した。 ブラッドベリー氏はその後、ニューヨークのロングアイランド・ハンプトンズにあるジェフリーズ被告の邸宅(当時)で開催されたパーティーに呼ばれ、同被告と会って性行為におよんだ。パーティーが「人目から隠れた」場所で行われ、アバクロンビー・アンド・フィッチの制服を着たジェフリーズ被告の専属スタッフが監督していたため、「『ノー』とか『気が進まない』と安心して言えなかった」と語った。 ■アバクロの反応 BBCによる最初の調査報道の後、アバクロンビー・アンド・フィッチは疑惑について独自の調査を開始すると発表した。しかし、BBCが先に、この調査がいつ完了するのか、また調査結果が公表されるのかを問い合わせたところ、同社は回答を拒否した。 ジェフリーズ被告やスミス被告と同様、アバクロンビー・アンド・フィッチも、ジェフリーズ被告が主導したとされる「人身売買ビジネス」を知らなかったと主張。民事訴訟の棄却を求めている。 アメリカの裁判所は先に、人身売買およびレイプ容疑に関する民事訴訟で争い続けるジェフリーズ被告の弁護費用について、アバクロンビー・アンド・フィッチが負担しなければならないとの判決を出した。ジェフリーズ被告は同社を相手に、弁護士費用を支払うよう求める訴訟を起こしており、判事は同被告をめぐる疑惑は同被告の役職と関連していると裁定した。 アバクロンビー・アンド・フィッチは、法的な問題についてはコメントしないと述べた。しかし、裁判所に提出した意見書の中で、現在の経営陣はBBCが連絡してくるまで「この疑惑について知らなかった」とし、ジェフリーズ被告やその他の人物による「性的虐待を憎み、疑惑の行為を非難する」と付け加えた。 ジェフリーズ被告は2014年、売り上げ減を受けてCEOを退任。当時の申告によると、退職金パッケージは約2500万ドル相当の内容だった。 同被告はかつてアメリカで最高の報酬を得るCEOだったが、何かと物議を醸す人物でもあった。スタッフへの差別、ぜいたくな出費、人生のパートナーのスミス被告が非公式な立場ながら社内で影響力を持つことなどについて、苦情が相次いでいた。 (英語記事 Ex-Abercrombie CEO charged with running sex trafficking ring
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