『劇場版ドクターX』完結編に相応しい“シリーズらしさ” 米倉涼子の唯一無二の迫力
フリーの凄腕外科医・大門未知子(米倉涼子)は、今日もどこかのヤバい国で、銃を突きつけられながら大統領を手術していた。無事に手術を終了させて日本に戻った未知子の前に、謎多き若き医者・神津比呂人(染谷将太)が現れる。比呂人は未知子と縁の深い東帝大学病院の新病院長に就任し、徹底的かつ強引なコストカット改革を押し進める。そんな比呂人には、未知子のマネージャーであり師である神原晶(岸部一徳)とのあいだに複雑な過去があって……。 【写真】『劇場版ドクターX』場面カット(複数あり) 人気医療ドラマの劇場版であり、12年の歴史に終止符を打つ完結編である『劇場版ドクターX』。テレビシリーズがけっこう好きだったのと、西田敏行の遺作ということで足を運んだわけだが……結論から言えば、テレビシリーズの完結編としては、やるべきことをきちんとやった手堅い映画に仕上がっていた。様々な問題はあるが、しかし『ドクターX』としては問題ないのである。 『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)は2012年から始まった大ヒットシリーズである。米倉涼子演じるスーパードクター大門未知子が、トラブルを抱えた人々と向き合い、往々にしてトラブルの中核となる人が体を壊してブッ倒れ、『ブラック・ジャック』ばりの無理難題を持ち前の手術スキルで何とかして、最終的にトラブルも丸く収まるという、『水戸黄門』的な安心感が魅力のドラマだ。手術室で米倉涼子が目を見開けば、あとはもう何とかなる。それくらいのザックリ感がたまらない。こう書くと『ギャグマンガ日和』の「名探偵うさみちゃん」シリーズのようだが、12年に渡って一貫して面白い脅威の作品である。 原作ドラマがそういうザックリ風味なので、映画版である本作も非常にザックリしている。そこに疑問がないワケではない。冒頭から『トップガン マーヴェリック』(2022年)の「ならずもの国家」を超える、ふんわりとした何かヤバそうな国での手術が炸裂。その後に「タイパ」「コスパ」「オワコン」といった、こっちが少し恥ずかしくなるほど分かりやすいイヤな若者感を出す染谷将太が出現し、2時間のスペシャルドラマっぽい空気に少し不安になるが……しかし、ここから映画はきちんとドラマシリーズのファンのツボを的確に押さえていく。 まずは遠藤憲一をはじめとするドラマのレギュラーたちがボケ倒し、西田敏行が相変わらずアドリブなのか台本通りなのか分からない演技で魅せてくれる(つくづく良い役者さんだった)。ほとんど“顔出し”のレベルだが、伊東四朗の出演も嬉しい。そして米倉涼子と内田有紀と岸部一徳の掛け合いもドラマ通り、息の合ったハッピーな空気感に満ちている。それにしても米倉涼子も大したもので、ドラマと同じくミニスカートにハイヒールで堂々と闊歩する姿は唯一無二の迫力だ。コロコロ変わる衣装も、七変化的な楽しさがある。こうしたドラマ版の魅力をそのまま持ってきつつ、「劇場版」らしさを担保してくれているのが染谷将太だ。ある意味での緩さがあるテレビからの常連組に対して、劇場版にして完結編のゲストキャラとして、気合の入った(そして彼の十八番でもある)サイコパス演技と、しかし「単なるサイコ野郎じゃない」と分かる繊細な演技でキャラを立ててみせる。 キャラクター周りをしっかり押さえつつ、ストーリーでも完結編に相応しい、踏み込んだ展開が続く。本格的に描かれる大門未知子の過去、神原と大門の絆、決め台詞「私、失敗しないので」の真意と、「医者はどうあるべきか?」というメッセージ……。完結編に相応しい、作り手からファンに向けての「伝えたいこと」が真っすぐに投げられる。とはいえ、そこで考え込みすぎず、良くも悪くも真面目になりすぎないのも、このシリーズらしい。中盤から染谷将太のまわりで2~3回ほど「それはさすがに無茶では?」な展開もあるのだが、不思議と「あり」と思えてしまうのは、それだけ『ドクターX』の世界観(と言うより、この作品の空気だろうか?)がしっかりしているからだ。現実や他の映画なら無理かもしれないが、「まぁ『ドクターX』だからイイか」と許せてしまうのである。 シリーズのファン以外が観た時、疑問に思う箇所は多々あるだろう(こんなに臓物が堂々と映る映画もホラー映画以外では珍しい)。しかし、『ドクターX』のファンならば、恐らくいい気持ちでシリーズ完結を見送れるはずだ。エンドロールの映像では「12年間、楽しいドラマをありがとうございました」と、素直に感謝の気持ちを送れた。そして、主要キャラクターを演じる内田有紀が、ある時期からまったく変わっていないことに、言い知れぬ凄みを感じたことを記して、この記事を終わりたい。
加藤よしき