筋金入りの“スクエニ野村哲也ファン”の若者が、自らゲームクリエイターとなり、自身が作るゲームとのコラボを実現するまで──あの野村哲也を動かしたのは、“並々ならぬ熱意”が詰まった企画書だった【『レナティス』×『新すばせか』コラボ座談会】
それは、ひとりの若者の熱い思いから始まった。 彼が憧れた男の名は野村哲也。『キングダム ハーツ』をはじめ、数多くのゲーム開発に携わるゲームクリエイターだ。 『REYNATIS/レナティス』画像・動画ギャラリー その若者は、野村氏がこれまで手がけた作品に影響を受け、リスペクトを抱き、ついには野村氏が手がけた作品と彼自身が手がける作品とでゲーム内コラボを実現した。 若きクリエイターの名は礒部たくみ。2024年7月24日発売予定の渋谷を舞台としたフリューのアクションRPG『REYNATIS/レナティス』の企画原案・プロデュース・ディレクションを務める。 コラボするタイトルは、同じ渋谷を舞台とする2021年7月27日に発売されたスクウェア・エニックス制作のアクションRPG『新すばらしきこのせかい』。 フリューとスクエニ。今回のコラボは、家庭用ゲーム同士では珍しくメーカーという垣根を超えて実現したものだ。そして、このコラボが成立した背景には、礒部氏の『すばらしきこのせかい』に対する、ひいては野村氏の手がける作品に対する並々ならぬ熱意があったからだという。 そこで今回は、礒部たくみ氏が『新すばらしきこのせかい』をはじめとする、野村氏の手がけるタイトルにどのような思いを寄せているのか。いかにコラボ実現に至ったのかに迫る座談会を開催する運びとなった。 そんな若きクリエイターと席を囲むのは、今回のコラボ開催に尽力した『新すばらしきこのせかい』開発陣。クリエイティブプロデューサー、キャラクターデザインを務める野村哲也氏、プロデューサーの平野智彦氏、シリーズディレクターの神藤辰也氏のお三方だ。 本コラボ開催の経緯を皮切りに、「ゲームクリエイターとしての原動力」「野村氏からの若きクリエイターへのアドバイス」など、会社の垣根を超えて、世代を超えて語られるゲーム作りへの熱い思いをぜひご覧いただきたい。 聞き手/豊田恵吾 編集/竹中プレジデント 撮影/佐々木秀二 ■若きクリエイターの熱意がメーカーの垣根を超えた ──今回のコラボはメーカーの垣根を超えて、家庭用ゲーム同士のコラボということで、なかなか珍しいと思います。そもそも、野村さんのもとにはどのようにコラボのお話があったんでしょうか。 野村哲也氏(以下、野村氏): この場にもいる平野から「コラボ実施の相談がきています」と連絡があって、企画書に目を通したんです。そうしたら……これは「相当やっとるな」と(笑)。 一同: (笑)。 野村氏: 企画書のすべてから礒部さんの熱意が溢れていたし、とにかく濃かった。 ここまで『すばせか』が好きな気持ちをぶつけられたら、コラボの協力をしてあげたくなるし、成功してほしいとも思いますよね。だから「できることは力になってあげてほしい」と平野に伝えたんです。 礒部たくみ氏(以下、礒部氏): 野村さんにそう言っていただけて光栄です……。 『レナティス』は渋谷が舞台のゲームなのですが、渋谷を象徴するようなお店やランドマークを実名で登場させていく中で、僕としては渋谷といえば『すばせか』のイメージしかなくて。「ダメもとでもいいから提案してみよう」と思ったのが、きっかけでした。 ──『レナティス』と『新すばせか』では開発している会社が違うわけですが、どのようにコラボ提案のご連絡をしたのでしょう。もともと礒部さんと『すばせか』チームにつながりはあったんでしょうか? 礒部氏: いえ。つながりもなければ、コラボの相談をする窓口もわからなかったです。 うちの営業に相談してみたら、たまたまマーケティング担当の方とつながりがあって、そこから平野さんを紹介していただいたんです。 平野智彦氏(以下、平野氏): 初めてお話したとき、すごい熱意と勢いを感じました。企画書を見た時には本当にビックリしましたね。 ──そんなに。最初に平野さんとお話される際に、礒部さんから「コラボ実現のため」平野さんを口説く工夫は何かされたんですか? 礒部氏: その時点で出せる情報を全部詰め込んだ企画書をそのまま包み隠さず持って行って「ビジネスライクじゃないんです。本当に『すばせか』が好きなんです!」という思いで企画を紹介させてもらいました。 平野氏: 今だから言えることなんですが、その場では「渋谷というところでコラボを希望されているのなら、『すばせか』よりも有名な作品が他にありますから、そこは遠慮なく言ってくださいね」という話を僕からさせてもらっていたんです。 でも、礒部さんからすごい熱量で「『すばせか』とコラボをしたいんです!」という思いをご説明いただいて……これは、もしかしたら弊社のファンの方なのかなと(笑)。 礒部氏: おっしゃる通りただのいちファンです(笑)。 『キングダム ハーツ』あたりからほぼ全タイトルやっていると思います。ちょうど人格形成のタイミングで出会ったので、かなり影響を受けていますね。 ──そういった中で今回のコラボが決まったわけですが、当然ですが礒部さん自身、かなり気合が入ったんじゃないでしょうか。 礒部氏: そうですね。めちゃくちゃ気合が入りました。むしろ社内では『新すばせか』コラボの話のときだけテンションが高いと言われることもあります。 ……それに、コラボのためにただ簡単な要素を入れるだけにはしたくなかったので、ユーザーがきちんと納得するための濃度の高いコラボにするために、当初の開発スケジュールを伸ばしたりもしました。 ■「中途半端なコラボはよくない」と両作品が濃密に絡むコラボに ──礒部さんの熱い思いからスタートした今回の『レナティス』と『新すばせか』のコラボですが、ズバリ見どころはどこでしょうか。 礒部氏: 何よりもまずシナリオを見ていただきたいですね。『レナティス』と『新すばせか』のキャラクターたちがどう絡んでいくのかが見どころです。 神藤辰也氏(以下、神藤氏): 今回のコラボで展開されるストーリーは、『新すばせか』本編とはパラレルではあるのですが、『新すばせか』の序盤、リンドウたちがツイスターズを結成してしばらく経ったくらいの時間軸が舞台というのは決めて作っています。 あまりお話するとネタバレになってしまうので詳細は伏せますが、リンドウとショウカは敵同士の関係性なので、そのふたりが別世界に飛ばされ、元の世界に戻るために協力する……というストーリーは面白いかなと思ったんです。 ──今回のコラボは、キャラクターがただ登場するだけではなく、両作品が濃密に絡んでいる印象を受けます。ここまでのコラボによくゴーサインを出したな……と不思議に思います。 平野氏: 少し真面目なお話をすると、「契約書の内容の範疇であれば」という話ではあるので、弊社としては、この案件に関して抵抗感は無かったと思います。 コラボの具体的な内容については、礒部さんからご提案いただき、それを野村、神藤の両名に見せて、確認をとったうえで進めていきましたので。 ──コラボ内容については実際にどのように決めていったのでしょうか? 礒部氏: まず、僕がしたいことを全部まとめて、平野さんと神藤さんと打ち合わせをしながら、ブラッシュアップしていきました。 平野氏: 「せっかくのコラボなら」ということで、弊社からも要望を伝えさせてもらいながら、礒部さんと僕たちで一緒に決めていきましたよね。 神藤氏: ありがたいことに『すばせか』シリーズはファンの皆さんに熱く支持されているタイトルではあると思っているので、それこそ「中途半端なコラボはよくない」と考えてはいました。ファンの皆さんにもオススメできる内容でないといけないなと。 なので、ショウカたちを『レナティス』の中にしっかり出してもらうことにしまして、こちらからも具体的なアイデアを出しながら内容を詰めていきました。 ──スクエニさんとしては、コラボをするうえで気を付けたことってあったんでしょうか? 神藤氏: 『レナティス』と『新すばせか』を単純に融合しただけだと、ふたつの世界観がうまく成り立たないので、「どういう設定であればお互いの良さを殺さずにできるのか」を考えましたね。 最終的には、ふたつの世界観が融合した “狭間の世界” を作って、そこでお話が展開する形にさせてもらいました。 ──その流れで、『新すばせか』のシナリオライターの石橋さんが、こちらのシナリオも担当されるというお話が出てきたんですね。 神藤氏: そうです。大筋のプロットは礒部さんに書いていただいて、僕とディレクターの伊藤に石橋を加えた3人で内容を詰めました。 そこから改めて『新すばせか』のルールに則った形のプロットに直して、石橋にテキストを書いてもらっています。 平野氏: ちなみに、『新すばせか』のBGMをそのまま使って欲しいという要望も、弊社から出していましたね。 神藤氏: 実際にどの場面でどのBGMを使うのかについては、強い思い入れがある伊藤に全部指定してもらいましたね。 礒部氏: 僕自身、「コラボでここまでできるんだ……」と、驚きの気持ちでいっぱいでした。 ですので、『すばせか』いちファンとして、今この瞬間だけはファン代表という気持ちで、「何をしたらファンは喜ぶだろう?」というのを常に意識していましたね。 『新すばせか』のあのキャラとウチの『レナティス』のキャラを会話させたいなとか……いろいろ考えながら進められたと思います。 ■キャラデータの共有から相談まで、『新すばせか』チームからの全面的なバックアップがあった ──両タイトルの開発者たちが同じチームのようにひとつになり作り上げられた今回のコラボですが、礒部さんご自身、コラボ企画の提案をする際には、まさか『新すばせか』のリンドウとショウカを作れるとは夢にも思っていらっしゃらなかったんじゃないでしょうか。 礒部氏: それはもう……。本当に嬉しかったです。 『すばせか』シリーズに関しては、DSのころからリアルタイムでずっとやっていましたから、レナティスのプロデューサーであると同時に、「すばせか」シリーズのいちユーザーとして、それぞれのキャラクターの魅力的な部分、大事にしたい部分があるんです。 なので、そこをうまく『レナティス』に絡ませるためにはどうしたらいいかな? というのをずっと考えながら作っていました。 ──素朴な疑問なんですが、今回のコラボのリンドウとショウカのグラフィックはフリューさんが作られたんですよね? 礒部氏: いえ、基本的には全部データをいただいています。 ──え、そうなんですか⁉ 礒部氏: ただ、それをそのままゲーム内で使うことはできないので、『レナティス』に合うような形に調整して動かしています。 平野氏: 基本的に渡せるものは全てお渡ししていたと思います。たぶん礒部さんは「なんでこんなにデータくれるの?」って疑問に思ってたんじゃないかな(笑)。 幸いにも、どちらも使っているエンジンがUnityでしたので、比較的スピーディーに作業を進められたように思います。 礒部氏: 作業の進捗についてのやりとりはかなり頻繁にしていましたね。とくに、平野さんとはよく飲みに行くこともあり、進捗の共有や相談などする機会があったので、安心して作業を進められました。 平野氏: そうでしたね。進捗を見せていただいて、「ここが『すばせか』らしくないので、ちょっと直してもらってから、社内メンバーにも確認を回します」みたいなやりとりもしていました。 野村氏: このままだと引き抜かれるんじゃないかな、平野。 一同: (笑)。 ──ちなみに、礒部さんの思う『すばせか』らしさは、どういったものでしょうか? 礒部氏: 野村さんのタイトルって、“現代の中にファンタジーがある” というのがすごく魅力的だと僕は思っているんです。 『すばせか』は、その魅力がいちばん尖って出ているタイトルなので、その部分が『すばせか』らしさだと思います。 ──スクエニさんとしては、コラボの完成形をご覧になってどういった感想をお持ちになりましたか? 神藤氏: 『すばせか』は線が太い2Dの独特のタッチで描かれていてたんですが、「そのイメージをポリゴンでどう再現するか?」という気持ちで取り組んだのが『新すばせか』なんです。 その独特なタッチが『レナティス』のリアル路線な絵柄と融合したらどうなるんだろうというのが、若干不安点としてあったんです。 でも、できあがったものを見たら「あれ? そんな違和感ないな」って。敵となる「ノイズ」もうまくそのタッチに落とし込んでバトルができていたので、仕上がりは申し分ないかなと思っています。 ──野村さんは何か気になるところはありましたか? 野村氏: グラフィック的なところですが、色の濃さが気になりまして、そこだけはお伝えしました。あと、「ここまでやるなら、声は入れたかったな」と思いましたね。 平野氏: コラボ企画についてご相談があった段階で、『レナティス』本編の開発がかなり進んだ状態だったんですよね。 ですので、今回のコラボはサブストーリー的なものとして実施しているんですが、スケジュール的にボイスの追加収録は難しかったとお伺いしました。礒部さんとしては、僕ら以上にもっとやりたかったことがあったんだろうなと……。 礒部氏: ……「レナティス 2」でやります。 神藤氏: はやっ! 一同: (笑)。 ■礒部さんが解釈した「渋谷」が作られているのが『レナティス』というゲーム ──『レナティス』そのものについては、平野さんと神藤さんはどのような第一印象をお持ちになりましたか? 平野氏: どうですか、神藤さん。「相当やっとるな」以外にどのような印象を受けましたか? 神藤氏: ……「相当やってるな」と。 平野氏: 同じじゃないですか!(笑) 神藤氏: 渋谷を舞台にしたゲームはたくさんあると思うんですが、各作品がそれぞれに解釈した「渋谷」を作っているので、礒部さんが『すばせか』にリスペクトがあったとしても、礒部さんが解釈した「渋谷」が作られているのが『レナティス』というゲームだと思うんです。 そこに僕らが作ったものが融合したら、面白いことが起きるだろうなというのが、第一印象としてありました。 野村氏: まあ、ここまで素直に真正面から熱意をぶつけられているわけですから、成功してほしいと思うのは人の心として自然じゃないですか。 もし邪(よこしま)な気持ちがあれば、こんな風に正面から門を叩いてこないと思うんです。 ──やはり、真正面からというのは珍しいケースなんですか? 平野氏: そうですね。弊社でもあまり聞かないですね。 野村氏: ストレートで素直なところがいいなと思いましたね。 ──なるほど。街の景色って5年10年でけっこう変わっていくものなので、『新すばせか』と『レナティス』の渋谷にも違いがあるかと思います。監修をされているときに何か感じた部分はありますか? 平野氏: 『新すばせか』と『レナティス』って、街の景色だけでなく、そもそもの印象が結構違うんですよね。 『新すばせか』は明るい、昼間の渋谷のイメージで、『レナティス』はどちらかと言うと夜の渋谷のイメージ。さらにその中で、アニメティックな表現をしている『新すばせか』と、フォトリアルに寄せている『レナティス』という違いが大きく出ているかなと思いながら見ていました。 ──昼と夜の違いですか。礒部さんとしては、夜の渋谷を描いてみたいという意識があったんでしょうか? 礒部氏: 『レナティス』に登場する魔法使いは抑圧されていて「人に素顔を見られてはいけない、陰に生きる存在である」というコンセプトがあったからですね。この設定があるので、『レナティス』は魔法使いが動く夜がベースになっています。 ──渋谷を舞台とする『レナティス』と『新すばせか』では、どちらも実在店舗がゲームに登場していますが、お店の許可をいただくのは大変な作業かと思います。許可を取るための方法といったご相談は、礒部さんからスクエニさんにしたりはしたんでしょうか? 礒部氏: 最初のころは平野さんに、店舗の許可取りについていろいろ相談させていただいていました。 平野氏: ただ、最終的には『レナティス』のほうが『新すばせか』よりも多くの店舗を実名で出していらっしゃいますから、礒部さんの頑張りだと思いますよ。 礒部氏: 『レナティス』のころと『新すばせか』のころでは、そもそも渋谷の建物やお店の数が全然違うので、一概に比較はできないのですが、そう言っていただけるのは本当に嬉しいです。 ただ、そこについては、開発チームのみんなに協力してもらったので、僕以外の人たちの頑張りが大きいです。 平野氏: 『レナティス』であれだけのお店に許可を取るのは本当に大変だったろうと思います。 ■ゲーム制作の原動力は「みんなを喜ばせたい」気持ち ──続いては、礒部さんのパーソナルな部分についてお伺いできればと思います。礒部さんのゲーム作りにおける原動力というものはどこにあるのでしょうか? 礒部氏: 小さいころから、おもちゃを買わなくても「自分で作ればいいじゃん」と思っていました。自分で作ったものを友達に見てもらう、遊んでもらうことが楽しくて、今振り返るとその楽しさがモチベーションになっていたんだと強く感じます。 ──そんな礒部さんの創作における芯の部分は、どういったものなのでしょうか? 礒部氏: そうですね、僕が人生を通じて感じてきたのが、「個性を出したくても出せない人たちが一定数いる」ってことなんですよね。出る杭は打たれるみたいな。 今回の『レナティス』のテーマやコンセプトもそうなんですけど、「みんな個性を出していいんだよ、派手なことしていいんだよ」というのが軸としてあるのかなと思います。 あとは……やっぱり暗ーい感じの雰囲気が好きっすね。僕は陽キャに憧れてこの見た目になった陰キャなので。 一同: (笑)。 ──ちなみに、野村さんに初めてお会いしたときのき礒部さんは今と同様にピンク色の髪だったんですか? 礒部氏: ……だったと思います。 ──となると、野村さんは驚かれたんじゃないですか? 野村氏: 『レナティス』にシナリオライターとして参加してる野島(一成)さんがX(旧Twitter)で「会うたびに髪の色が違う」って言ってたから、驚きはしなかったですね。 神藤氏: 確かに、リモート会議のたびに髪色が違ってた気が(笑)。 ──礒部さんの髪の色は知れ渡っていたんですね。野村さんにもお伺いしたいのですが、野村さんのゲーム作りに対しての原動力はどういったところにあるんでしょうか? 野村氏: 真面目な話をすると、作りたいものって若いころからいっぱい積み重なって溜まっていくんですけど、ゲームってどう頑張っても形にするまでに数年かかるじゃないですか。 だから、アイディアの方が多い状態になるんですよ。今はそれを一生懸命消化していってるところです。 そして、クリエイティブな活動を続けている根本にあるのは「相手を喜ばせたい」という気持ちですね。 学生時代には授業中にマンガを描いて友だちに読んでもらったり、休みの日に紙にすごろくみたいなゲームを作って学校に持って行ったり。「自分の作ったもので、誰かが喜んでくれる」ということそのものが好きでした。 ■現代が舞台のゲームを作るからこそ「作りものでウソなのが嫌」 ──せっかくなので、ゲーム制作にあたってのインプットについてもお聞きしたいのですが、礒部さんはどのように情報を取り入れているのでしょうか? 礒部氏: 「ここから吸収するんだ!」という意識はなく、日常的に「これ使えそうだなとか」というものがあったらメモをするようにしていて、日々ストックを増やしています。 野村氏: 映画はよく観ます。今日も観てきましたよ。 ──ちなみに、今日は何をご覧になったんですか? 野村氏: 今日は『ミッション:インポッシブル/ ゴースト・プロトコル』でした。 ──どのようなジャンルをよくご覧になるんでしょう。 野村氏: 色々と観ますね。いちばん好きなのはホラーです。ほとんどのサブスクに入ってるんですけど、どのサブスクでもホラーは沢山観てますね。 礒部氏: おお。ちなみに何がいちばん好きですか? 野村氏: とにかくずっと観ているから、タイトルをまったく覚えていないんです。家でDVDを整理してたら、同じタイトルが3本出てきたこともあったり(笑)。 覚えている範囲だと『フッテージ』かな。基本的には、POV系のフェイクドキュメンタリーが好きなんです。 礒部氏: ああ~! いいですね! 野村氏: 最近は『トンソン荘事件の記録』なんかも観ました。 ──フェイクドキュメンタリーがお好きなのには、何か理由があるんですか? 野村氏: 自分が作るゲームは現代が舞台になっていることが多くて、そこにも繋がるんですが、作りものでウソなのが嫌なんですよ。 この世に怖いホラー映画ってないんです。自分は「作り物だな~」と思いながら見てしまうので、何も怖くないわけです。 だから、フェイクドキュメンタリーのリアルっぽい感じが、求めているゾクゾク感を得られるんですよね。最近だと、『呪詛』とか『女神の継承』も凄く良かったな。 礒部氏: 日本のテレビ番組なんですけど、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』ってご存じですか? 一見するとバラエティ番組なんですが、じつはその先に衝撃的な展開が……という番組なんです。 僕はバラエティ番組だと思って見ていて驚いたんですが、面白かったですね。 野村氏: へぇー……。今、そういう番組だってオチを知っちゃったけど……。 一同: (笑)。 ■ゲームを作り続けるなら「クリエイティブのことだけを考えたほうがいい」 ──礒部さんが野村さんにお会いした時、どのようなお話をされたんでしょう? 礒部氏: そうですね……僕がゲームクリエイターを目指すきっかけになったのが『キングダム ハーツ』でした。自分の人生におけるキーパーソンと言いますか、憧れであり尊敬している野村さんですので、緊張して挨拶以上の踏み込んだ会話ができませんでした(笑)。 なので、アイスブレイクの意味合いもかねて、まずは、いちファンとして『FINAL FANTASY Versus XIII』をプレイしたかったという想いを伝えてみました(笑)。 僕自身、野村さんがクリエイターとしてどのような考えを持っていらっしゃる方なのかすごく気になっていたので、お話のなかで少しでも野村さんのお考えを感じ取れたらいいなと。 野村氏: あの時は、そういうゲーム作りに関する話は全然しなかったですよね? 「意外と話しやすいでしょ?」って話をしたくらいだと思います。 ──(笑)。野村さんから「話しやすいでしょ?」とは言われても、礒部さんは相当緊張されていたんじゃないですか? 礒部氏: はい、緊張してました……。 ──礒部さんにとって野村さんは、子供のころから憧れたレジェンドゲームクリエイターなわけですから、緊張もしますよね。ところで礒部さんって今おいくつなんですか? 礒部氏: 31歳です。 ──お若いですね。皆さんから見ると、礒部さんのような若いゲームクリエイターはどのように見えるのでしょうか。 神藤氏: やっぱり、バイタリティーはものすごいと思いますよ。 野村氏: 自分自身をふり返ってみても、30代がいちばんパワーが出ていましたからね。礒部さんにとってここから10年が大事になるのではないかと思います。 ──野村さんが30代が大事とお考えなのは具体的にどのような理由からなのでしょう? 野村氏: 20代でいろいろと経験を積んでいると、30代のころには力がついていますから。そして徹夜できる体力もある。自分はもう老後ですから徹夜は無理です(笑)。 平野氏: 老後というにはまだ早くないですか? 神藤氏: 我々はもう定年間近ですからね。 野村氏: 「定年までゲーム何本作れる?」って状態だからね。30代は体力や熱量もあるし、これまでに自分が見てきたこと、経験してきたこともある。だから、一番濃密に作りたいものに取り組めるんじゃないかな。 ──礒部さんのような若手クリエイターの方に「これはやっておいたほうがいい」というアドバイスがもしあればお伺いしたいです。 野村氏: 邪(よこしま)な感情が入りだすと、いいものを作れなくなっていっちゃうので、クリエイティブのことだけを考えたほうがいいです。 「クリエイティブを第一にしてやっていくんだ」という気持ち、「自分の実力で証明してやろう」と思い続けることが大事なんじゃないかと思います。 ■礒部さんには『レナティス2』を作っていただきたい ──本日はコラボに関係あるお話からないお話まで、いろいろお聞かせいただきありがとうございました。それでは最後に『レナティス』コラボを楽しみにされているファンの方に向けて、ひと言ずつお願いします。 神藤氏: 「渋谷」という街はゲームによって様々な描かれ方をしていて、『新すばせか』は「僕らが渋谷を作るとこうなる」を突き詰めたタイトルになっています。 僕自身としては「礒部さんが作った渋谷ってどういうものだろう?」ってところに興味があるので、早く『レナティス』を遊びたいですね。 『新すばせか』ファンの方々は、『レナティス』の渋谷に『新すばせか』の渋谷がどう絡んでいるのかを楽しみにしていただけたらなと思います。 平野氏: 僕はもうすでに『レナティス』本編とコラボ部分をちょっとだけ触らせてもらっているんですが、「これなら皆さんに楽しんでいただける」という内容には仕上がっていると思います。『レナティス』が気になっている方々は、そのまま期待して貰って良いと思いますね。 野村氏: 今回のコラボは、礒部さんの熱量から始まって、それを受けて我々もできることはすべて協力させてもらいました。中途半端なつもりでやってないというのは分かっていただけると思うので、これが世界中で受け入れられたらいいなと願っております。 『すばせか』ファンが『レナティス』を楽しんでもらえるといいですし、逆に『レナティス』から『すばせか』に興味を持ってくれる方がいたら嬉しいですね。 平野氏: そうですね。『すばせか』シリーズも是非遊んでいただけたら! 礒部氏: 今回のコラボに関しては、皆さんにご協力いただいたおかげでメーカーの垣根を超えて、いいものを作り上げることができたと思いますので、非常に感謝しています。 『すばらしきこのせかい』という凄く面白いタイトルのいちファンとして、ファン代表として、こういう展開があれば嬉しいよねという思いで今回コラボさせていただいたので、それを楽しんでいただきつつ、ぜひとも『レナティス』で楽しんでいただけたらなと思います。 野村氏: あとは、この作品がうまくいったら、礒部さんには『レナティス2』を作っていただきたいですね。そうすれば、もっといいことが起きるかもしれません。 ──今回のコラボを受けて、野村さんの正面玄関を叩くクリエイターの方が増えそうだなとも感じますが、野村さんはどう思いますか? 野村氏: 自分がいる間にどんどん叩いてください。定年後のことはわかりませんが(笑)。 一同: (笑)。 平野氏: 先ほど礒部さんの年齢のお話がありましたけど、31歳という年齢でプロデューサー兼ディレクターを務めて、これだけ熱意を持って弊社に声をかけてきてくれるというのは、本当に珍しいと思います。 遠慮されてるクリエイターの方もいらっしゃるかもしれないんですけど、やっぱりそういう意味で礒部さんは貴重な人材だなと。 礒部氏: ありがとうございます! ──先ほどの野村さんの話にもありましたが、お金や地位だけでなく「いいものを作る」ことを追及して、いいゲームを作り続けていただきたいですね。 野村氏: ……まあ、お金は大事ですけど(笑)。 一同: (笑)。 ──それは誰も信じないと思います(笑)。本日はどうもありがとうございました!(了) 『レナティス』と『新すばらしきこのせかい』。家庭用ゲーム同士がメーカーの垣根を超えてのコラボが実現した裏側には、礒部氏の『すばらしきこのせかい』、ひいてはスクウェア・エニックスのタイトルに対する熱く濃い情熱があった。 その素直すぎる思いに、野村氏をはじめとする『新すばらしきこのせかい』開発陣が応える形で進められた今回のコラボは、『すばせか』ファンにとって「こういう展開があれば嬉しい」が詰められたものになっているという。 しかしながら、今回のコラボではスケジュールの都合で実現できなかったこともあるとのこと。少々気が早い気もするが、もし続編『レナティス2』の制作が実現したなら、今回以上に濃密なコラボを提案し、実現してくれるのであろう。 そういった意味でも、『新すばらしきこのせかい』とのコラボはもちろん、熱き思いでレジェンドクリエイターたちの心をうごかした若きクリエイターが世に送り出す『レナティス』に大いに期待したい。 撮影協力:渋谷ソラスタ スカイラウンジ
電ファミニコゲーマー:豊田恵吾,竹中プレジデント
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