生見愛瑠『くるり』と広瀬アリス『366日』が描く記憶喪失の理想と現実…過去より今を愛せるか?
新しい自分を築こうとしていく火10「緒方まこと」
“今を大切にする”という視点は、同じ記憶喪失を扱う春ドラマの『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系、火曜22時)では、かなり初期からテーマになっていることだ。同作では、主人公で生見愛瑠演じる緒方まことが、第1話から記憶喪失の状態でスタート。まことの周囲に自称・元カレの西公太郎(瀬戸康史)や自称・唯一の男友だちの朝日結生(神尾楓珠)などが登場し、物語が展開していくが、まことに記憶が思い出せるよう追い込むような描写は、早い段階で無くなっている。 まことは自分がどんな人物か知ろうとする過程で、周囲の目を気にし過ぎて無難に過ごしてきた過去の自分に幻滅し、新しい自分を築こうとしていく。公太郎は第1話から「記憶がないってことは自分らしさから自由になれるのかも」と悟り、「今の自分で好きにやってみたらいいんじゃない」とまことにアドバイスしていた。 朝日は、第1話こそ生まれ変わろうとするまことに「過去のまことがかわいそう」と伝えていたが、その後も常にまことを想い、どんなまことも全力で守ろうと振る舞ってきた。まことが通うメンタルクリニックの院長からは、「まずは今の自分と友達になれるといいですね」と、プレッシャーを軽くするような言葉が与えられている。そうした周囲の支えもあって、まことは必要以上に過去を詮索するのではなく、今周りにいる人々から見えている自分を信じると決心出来たのだ。 ただ、『366日』で遥斗の周囲が必死に記憶を取り戻させようとしてきたことも、責めることは出来ない。大切な人が自分を忘れてしまったら、その人のためにも、自分のためにも、思い出して欲しいと願うのは自然なことだろう。その人が大切であればあるほど、その願いは強くなるはずだ。 記憶喪失となった人の周囲の理想的な形が描かれてきた『くるり~誰が私と恋をした?~』と、現実的な形が描かれてきた『366日』。その『366日』第8話は、看護師・宮辺によって、周囲の人が取るべき理想的な対応への気づきを与えられる回となった。“過去に彼女だった私”を押し付けるのではなく、今の遥斗の気持ちを優先し、恋人関係を解消した明日香。だが、これから2人が築いていく関係こそ、今の2人にあるべき姿なのだろう。
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