「三笘薫を見るために来たんだ」ブライトンの街で日本人選手の偉大さを感じた夜[#1]
今季もブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンでセンセーショナルな活躍を見せているサッカー日本代表FW三笘薫。そのパフォーマンスに虜になっているのは日本人だけではない。ブライトンの街を訪れると、その影響力の大きさを肌で感じることができる。(文:内藤秀明【ブライトン/イングランド】)
●お世辞か、本音か インターネットとSNSが発達し、どんな情報でも簡単に手に入る時代になってきた。しかしファンや選手の熱量など現地でしか感じられないものもあるはず。本稿は、1か月間、欧州に滞在している間、サッカーライターの内藤秀明が、現地で見聞きして感じたフットボールの文化や、日本人選手の存在感を紀行文の形式でお送りする短期連載だ。 渡欧3日目、ブライトン対シェフィールド・ユナイテッドの一戦を見るために、ロンドンから電車で1時間、海辺の街ブライトンに移動した。試合は翌日で、急ぎの用事もない。お昼過ぎの小腹がすくタイミングで、チュロスのキッチンカーを見つけたので立ち寄ることにした。 会計を終え待機列に並んでいる間、あたりを見回すとチュロス屋の屋根に、甘い匂いに誘われてか、かもめが止まっている。そこら中から「クゥークゥー」という鳴き声も聞こえる。さすがフットボールクラブの愛称が「シーガルズ(かもめたち)」の街だ。白い鳥が日常的に目に入る。自分が受け取る番がきて、頼んだ商品名を伝えると、50代程度の男性の店員に「韓国人か?」と聞かれた。 (なるほど。イギリスの小便器前に立つと少し背伸びをしなければならないほどに、スタイリッシュな僕だからか) 自虐的に心当たりを探しながらも、何も見当たらず「日本人だよ、明日のブライトンの試合で三笘薫を見るためにこの街に来たんだ」と正直に答えた。 するとその男性の店員は表情を変えず「日本人か」と頷いた後に「Mitoma is best player in Premier League at the moment.(現時点で三笘はプレミアリーグで最も優れた選手だね)」とお世辞なんだか、本音なんだかわからない表情のまま、同胞のドリブラーを褒め称えてくれた。 ●肌で感じた三笘薫の存在の大きさ イギリス人は文脈を読むのが上手で、口達者な人が多い印象がある。それでなくとも三枚舌外交の国だ。一つ一つの言葉をどこまで信じたものか、と言う気持ちもある。 とはいえだ、過去にニューカッスルファンに武藤嘉紀について(しかもマンチェスター・ユナイテッド戦で見事なシュートを決めた直後)、サウサンプトンファンに吉田麻也について尋ねたこともあったが、ここまでの美辞麗句は出てこなかった。三笘がいよいよ別次元の選手になってきている事実を肌で感じる。 その後、チュロスを秒で食べ終え、韓国アイドルの体型からまた一歩遠のいたところで、ショッピングモールの中に入って行った。余談だが、このモールについて何の気なしに調べたら1930年代から開発が計画され、1965年にオープンした商業施設らしい。この国は本当にあらゆるものに歴史がありすぎる。さてそんな50年前にはモダンだった施設を歩き回り、1901年創設のフットボールクラブのオフィシャルショップに立ち寄った。 まず第一に驚いたのが入り口の一番目に入る場所に置いてある電光掲示板には、アウェイユニフォームに身を包み笑顔の三笘の写真が表示されていることだ。そしてレジに行くと当たり前のように、10番エンシソとともに、22番ミトマのユニフォームが飾られている。 日本人選手がここまでクラブの顔のように扱われたことが未だかつてあっただろうか、しかも歴史を重んじるこの国において、フットボールの文脈ではまだまだ歴史の浅い日本の選手が。 現在『Transfermarkt』試算の金額では既に80億円の価値がついている三笘薫だが、今後もさらなる活躍をみせてこの国のフットボール史に大きく名を刻んで行くのだろう。その一部を明日は生で見られる。90分間という長い歴史からすると一瞬の時間かもしれないが、少しでもその偉大さを感じ取りたいと思う。 (文:内藤秀明【ブライトン/イングランド】)
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