米国で批判が高まる「医療保険の請求却下」、AIツールで対抗する起業家たち
先日、CEOを殺害されたことで注目を集めた米医療保険会社ユナイテッドヘルスケアは、保険金請求の却下率が最も高い保険会社の1つだとされている。同社を含む大手の保険会社は、人工知能(AI)を活用して請求を却下する場合もあるとされるが、企業のこのような取り組みにAIを使って対抗する起業家やスタートアップが注目を集めている。 サンフランシスコのエンジニア、ホールデン・カラウはAIを使って保険金請求の却下に異議を申し立てる無料のツール「FightHealthInsurance.com」を開発した。このツールは、却下に関する基本情報や保険プラン、健康履歴を入力すると、3種類の事前に作成された異議申立書を生成する。 「私は異議申立の数を増やしたいと考えています。却下が多すぎると思いますし、AIの活用において公平な競争環境を作ることが重要です」とカラウは述べている。 ユナイテッドヘルスケアを巡る問題は、先日同社のCEOが射殺されて以来、全米で議論を呼んでいる。この事件で逮捕され、殺人罪で起訴されたルイジ・マンジョーネ容疑者は、慢性的な腰痛に苦しんでいたことが明らかになっている。 調査会社ValuePenguinによると、ユナイテッドヘルスケアの請求の却下率は主要な医療保険会社の中で最も高く、全体の約3分の1の請求を却下していた。同社は請求の却下に関連して複数の訴訟を抱えており、昨年11月に亡くなった患者2名の遺族は、同社がAIモデルを用いて請求を却下したと主張している。 また、10月に上院調査小委員会が発表した報告書では、同社がアルゴリズムを使って請求を却下しており、「少なくとも1つの自動化技術が却下率の増加を引き起こすことをテストで認識していた」と指摘された。 この状況に対処しようと試みるもう1つのAIスタートアップが、10月に設立されたばかりのClaimable(クレイマブル)だ。同社の共同創設者でCEOのワリス・ボカリは、「今回の事件で問題が表面化しましたが、この問題は、ずっと以前から存在していたのです」と述べている。 クレイマブルはまず、保険会社から警戒されやすい高額な薬を必要とするリウマチ患者を支援することからスタートし、偏頭痛や子どもの精神症状を急激に発症させる脳疾患のPANSやPANDASなどにも対応を拡大した。同社は、2025年までに100以上の疾患に対応することを目指している。 ■トランプの政権下で却下はさらに増加へ クレイマブルは、これまでに数百件の請求を処理しており、成功率は85%以上だという。「保険会社はAIを使ってますます迅速に却下を行おうとしています」と語るボカリは、同社のAIツールを用いて異議申立てを行えば、保険会社は、人間の従業員による審査を余儀なくされると主張した。 ボカリはまた、政府の予算削減を目指す2期目のドナルド・トランプ政権が始まれば、保険金請求の却下がさらに増えることを懸念している。「メディケアの利用者にとっては悪いことになるでしょうし、退役軍人にとっても状況が悪化する懸念があります」と彼は語った。 一方、トランスジェンダーであるカラウは、性別適合手術に関連する保険金支払いに関して保険会社と争った個人的な経験から会社を立ち上げたと述べている。 「私の会社のツールは、保険会社のビジネスをより公正なものにすることを支援します」と彼女は語り、「AIで既存の問題のすべてを解決することはできませんが、AIを用いてより多くの人が医療保険にアクセスできるようにしたいのです」と付け加えた。
Amy Feldman