長野県飯田市が「焼き肉のまち」と呼ばれる理由 人口1万人当たりの店数が日本一、コンビニより多い 焼肉研究所、11月は焼肉月間、世界一長い鉄板…
「長野県飯田市が『焼き肉のまち』としての存在感を高めているのはなぜ?」。高校まで飯田市で過ごした宮城県の50代女性から本紙「声のチカラ」(コエチカ)に素朴な疑問が寄せられた。焼き肉文化が根付く同市は近年「焼き肉店数日本一」とPR。風評被害もあったコロナ禍を越え、にぎわい創出や交流人口増を狙っているようだ。(鈴木悠太) 【写真】昨年11月にオープンした信州飯田焼肉研究所 14日夜、JR飯田駅前の焼き肉店「ろくなもんじゃねぇ」から食欲を誘うにおいが漂ってきた。中では、市内外から訪れた客たちが、飯田ならではの黒モツ(牛の胃)やマトン(羊肉)などを味わっていた。こんろを囲む人たちは、どこか楽しげだ。 店の入り口を確認すると「日本一の焼肉街」「飯田市に来たら焼肉を食べよう」と書いた看板も。店長の三石鉄也さん(35)は「ここ数年『焼き肉を食べに飯田に来た』という客がぐっと増えた」と笑顔を見せた。 飯田市によると「焼き肉店数日本一」を認識したのは2012年。人口1万人当たりの店数について北海道の地方紙が、飯田市1位、北海道北見市2位と報じた―と北見市側から教わったという。 15年からは独自調査に乗り出した。飯田市農業課が事務局を務める南信州牛ブランド推進協議会が電話帳に基づいて店数を調査。21年には市内に53店あり、1万人当たり5・26店に上ることが分かった。コンビニよりも多く、もちろん「日本一」だ。 「焼き肉店日本一」を地域活性化につなげようと、市内の有志は焼き肉と音楽を楽しむイベント「焼来肉(やきにく)ロックフェス」も開いてきた。20年には日本記念日協会(佐久市)によって、11月29日が「飯田焼肉の日」に登録された。 21年11月29日には11・29メートルの長さの鉄板で肉を焼くイベントが開かれ、その時に使われた鉄板は「最も長い鉄板」としてギネス世界記録に認定された。現在は、昨年11月に開業し、市の焼き肉文化の歴史を伝える「信州飯田焼肉研究所」に展示されている。 「気にも留めていなかったが、全国に誇れる食文化だと市民も徐々に意識し始めた」。記念日登録やギネス認定に尽力してきた南信州食肉組合長の吉川武彦さん(69)は手応えを話す。 市広報ブランド推進課は11月を「飯田焼肉月間」とし、市内の焼き肉店で撮った写真を募集するなど盛り上げを図る。同課の秦雄太郎さん(31)は「民間の奮闘もあり、市民の“焼き肉愛”が深まった。飯田に人を呼び込むコンテンツとして魅力を磨いていきたい」と力を込めた。