平和と民主主義と繁栄と ── 「共存共栄」の松下幸之助を見直す
1968年初版の松下幸之助著『道をひらく』(PHP研究所)がいまもなお売れ続けている。昨年末現在で、累計発行部数は522万部だという。いままで240刷りも印刷されている。最近では、カバーはリバーシブルとなり、同研究所はさまざまな層にこの本の存在をアピールしている。
時代にとらわれない普遍的な内容
PHP研究所は「時代にとらわれない普遍的な内容が、シンプルでわかりやすい言葉で綴られているのが本書の魅力でいつの時代も老若男女に受け入れられる」とロングセラーとなった理由を説明する。実際に『道をひらく』を読んでみると、人間がどんなふうに生きるか、どんな心持ちで働くかということが、抵抗なく心に入ってくる。 その背景には、松下幸之助の人生がある。「一代で世界的企業グループをつくりあげた松下幸之助の人生経験に裏打ちされた『言葉』なだけに説得力・納得感があるのかもしれません。仕事、家庭、恋愛、社会など、さまざまな悩みに照らし合わせて読むことができる点が評価されているように思います」と同研究所。ここ数年同書は女性からの人気が高まり、リバーシブルカバー版やハローキティ版などを発売しているという。みんな、さまざまなことで悩んでいる。そこに松下幸之助の言葉が、光を照らすのだ。
「共存共栄」を理念にした松下幸之助
大型家電量販店があちこちにある現在ではピンと来ないと思われるが、かつては家電メーカーと家電販売店が強固に結びついており、店によっては特定のメーカーの製品を重点的に扱っていた。有名なのは「ナショナルショップ」のネットワークである。松下幸之助は「共存共栄」の考え方を基本に企業経営をしていた。無理な値引き販売はさせず、店の繁栄をつねに大切にするという姿勢を持っていた。 「平和と幸福と繁栄の道」 ── 。『道をひらく』のページをめくって目にした言葉だ。世界各国でテロが起こり、憲法改正の可能性もいわれている。日本で暮らす人は、みながみな決して幸福そうではなく、繁栄ももはやなくなってしまったように見える。そんな時代だからこそ、松下幸之助の考え方が、再度見直されているのだろう。『週刊東洋経済』の2016年9月3日号でも「不滅のリーダー 松下幸之助」という特集が組まれた。いま松下幸之助のような企業家が求められている。