ガスタービンエンジンの乗用車とかマジか! 軽量かつ高出力な「第三のエンジン」が模索された時代があった
かつてはさまざまな自動車メーカーが開発に乗り出していた
さて、このガスタービン、その重量、サイズに対して高出力が得られるという特徴から、軽量性、高速性が最重要課題となる航空機やヘリコプター(陸自AH-64D、AH-1Sなど)、軽量化によって高い機動性が得られることから洋上戦闘艦(海自こんごう型、あたご型など)の機関として用いられてきた歴史がある。 では、陸上交通の動力機関としてガスタービンはどうなのだろうか? やはり、軽量コンパクトにして高出力という特徴が注目され、1963年に米クライスラー社が乗用車「ターバイン(タービン)」で実用化を想定した試作が行われた。 ガスタービン機関の可能性を探る目的で作られた車両で、約132馬力/59kg-mの出力/トルクを発生。性能面では及第点だったが、排出ガス中に多量の窒素酸化物が含まれることから実用化は断念された。 ガスタービンを主動力機関とする例は、クライスラー・ターバインで見られた程度で、その後登場したトヨタ・センチュリー(1975年)、トヨタ・スポーツ800(1977年)、ボルボECC(1992年)などはショーモデルの域にとどまり、ガスタービン機関を発電機として用い、動力は電気モーターが受けもつハイブリッドシステムとして作られたことに大きな違いがあった。 なお、センチュリーの機関重量は公表されていたが120kgと軽量。オリジナルのV8エンジンに対し、その重量は3分の2から半分近かったことになる。 市販車のパワーユニットとしては実験段階で終わったガスタービンだが、レーシングカーの世界では少し事情が異なっていた。1967年のインディ500にSTPパクストン・ターボカーが登場。プラット&ホイットニー・カナダの製作したST6型(PT6型の派生)を搭載。 PT6型は、当時の小型航空機用として実用化されたエンジンだ。ST6型の機関重量は122kgで約586馬力を発生。インディ500の予選で6番手を獲得、決勝は残り8マイルの時点までトップを快走。ガスタービン恐るべし、の印象を関係者に与えていた。 このSTPパクストン・ターボカーに倣って1968年のインディ500に登場したガスタービンカーがロータス56だった。エンジンはST6からさらに一段進化したSTN型を搭載。4WDシステムと組み合わせる革新的なメカニズムで構成されたが、前年のSTPパクストン・ターボカーの性能を脅威と感じた主催者のUSACは、ガスタービンカーに吸気制限を課していた。このため、前年のようにレシプロエンジン搭載車を大きく引き離す場面は見られなかったが、それでもトップクラスのスピードを維持。逆にガスタービンカーの性能におそれをなしたUSACは、以降のインディカーの車両規定にガスタービンと4WDを禁止する条項を加えることになった。 その後ロータスは、1971年のF1にインディロータス56をF1用にアジャストしたロータス56Bを投入。しかし、ガスタービンエンジンの泣き所である燃費性能の悪さから大容量燃料タンクが必要となり、それが大幅な重量増につながることで戦闘力の低下を招いていた。 ちなみに現在、米陸軍のMBT(メイン・バトル・タンク)であるM1A1/M1A2エイブラムス戦車は、ハネウェル社製のAGT1500型ガスタービンを搭載。1500馬力級の機関出力を誇るが、初めて実戦投入された1991年の湾岸戦争で、燃費性能の悪さから戦略面で苦労があったという。 また、インディカーでの登場と歩調を合わせるようにして、グループ6/4規定による1968年のスポーツカーレース(マニファクチャラーズ選手権)にガスタービンエンジンを積むホーメットTXが登場。 エンジンはコンチネンタル・アビエーション・アンド・エンジニアリング社が供給したTS325-1型ガスタービン。機関重量77kg、355馬力/90kg-mの出力/トルクとレシプロエンジンに対して断トツの性能だったが、ユニットの信頼性に欠け、トラブルの頻発によってル・マンの戦績はいまひとつだった。 現状、自動車のパワーユニットに対する要求性能はカーボンニュートラルだが、e-fuelの実用化が現実味を帯びてきた現在、軽量コンパクト性、高出力性を備えるガスタービン機関が、いま一度見直されてもよいように思えてくる。
大内明彦