マイナス金利解除を受けて普通預金金利引き上げが進む:短プラ据え置きで変動型住宅ローン金利は大きく上昇しない
短期プライムレートは据え置き
他方、今回のマイナス金利政策解除が個人の住宅ローンの金利に与える影響は小さいとみられる。住宅ローン利用者の約7割が利用しているとされる変動型金利は、短期プライムレート(短プラ)と連動して動く傾向がある。短期プライムレートとは、金融機関が企業にお金を貸し出す際の「最優遇貸出金利」のうち、1年以内の短期貸出金利の基準となるものだ。 三菱UFJ銀行と三井住友銀行は、マイナス金利政策解除を受けても、この短期プライムレート(1.475%)を据え置くことを決めた。このため、各行が定める変動型住宅ローンの金利は大きく変化しないとみられる。また、短期プライムレートに連動する企業向け貸出金利も大きく変動しないだろう。 短期プライムレートの決定要因は明らかにされていないが、無担保コールレート翌日物を中心に、銀行の短期の資金調達コストの変化で決まる側面が強い。短期プライムレートが最後に下がったのは、日本銀行が政策金利(無担保コールレート翌日物の誘導目標)を0.3%程度から0.1%程度に引き下げた2009年だ。 しかし、2016年に日本銀行がマイナス金利政策を導入した際には、短期プライムレートは据え置かれた。企業向け貸出や住宅ローン金利が一段と下がって、銀行の収益に悪影響を与えることに配慮したためではないか。その際に、短期金利が引き下げられたにもかかわらず、短期プライムレートの引き下げは送られたことから、今回、短期金利がそれ以前の水準まで引き上げられても、短期プライムレートの引き上げは見送られたのだろう。
今回のマイナス金利政策解除の影響は小さい
日本銀行がこの先政策金利の追加引き上げに動く際には、短期プライムレートは引き上げられ、住宅ローン変動型金利や企業向け貸出金利がそれに連動して上昇し、家計や企業の経済活動に一定程度影響が出ることになるだろう。金利上昇が、国民生活や経済にどの程度の影響を生じさせるかは、この先の日本銀行の利上げ幅に左右される。 ただし、今回のマイナス金利政策解除については、短期金利の引き上げ幅がわずかであり、また長期金利が目立って上昇していないこと、短期プライムレートが据え置かれるとみられることから、国民生活や経済への影響はかなり限定的と言えるだろう。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英