テーマは“感情”「エモーション・クロッシング展」 クリエイティブディレクター・亀山淳史郎が伝えたいメッセージとは
■“感情”というテーマを扱う難しさ
――展覧会全体のことに話は戻りますが、“未来の暮らし”を考える上で“感情”にフォーカスをしたのは、なぜだったのでしょうか? 実はこの「SusHi Tech Square」での展示は、今回が第4期になるんですけど、1期目が「身体」、2期目が「都市」、3期目が「自然・環境」だったんですね。そう考えると、毎回、どんどんスケールが大きくなっていっていたので、次に開催する際には、もっと人間の内面をテーマに未来の生活や暮らしを感じていただきたいなと思ったんです。暮らしというのは、人の心や身体、繋がりなど、いくつかの要素で成り立っていると思うので、これまでやってきたこととは少し違う方法で提案するのもいいんじゃないかなと。 ――なるほど。「感情」をテーマに進めていく中でスタッフの意見で印象的だったものはありますか? 感情は目に見えないものですが、人と共有するものじゃないですか。だからそれを展示や体験という形で共有できるようにするっていうのはおもしろいよねという意見が出ました。 ただ、一方で「決め付けない」ということも大切だな、と。「悲しいと思ってください」という作品を作るのではなく、あくまでもそれを見て、どういう感情が起きるか、喜怒哀楽にも分類されないような感情を表現するのが大切なのではないかと。関わっている側が、ある感情を誘導してないかっていうところは慎重にクリエイターの皆さんとも話し合いました。 ――なるほど。たしかに、あまり簡易的に表現してしまうと感情の決めつけになってしまいますもんね。 はい。感情の問題を簡単に取り扱いすぎると、それはそれで危険だなと考えさせられました。世界を見てみると、伝わり方がうまくいかないから不幸なことが起きたり分断が生まれるじゃないですか。だから、自分の感情や相手の感情に対する理解とか許容とかっていうことがより進むことが、未来の暮らしでは必要なんじゃないかなって思って。決めつけず、ぶつからず、相手の気持ちを理解したり、許容したりみたいなことができるきっかけとしてのクリエイティブ体験がやりたかったんです。 ――決めつけずに、許容していく…たしかに曖昧さみたいなところは感情を引き出す上で大切になってきそうですね。 例えば、ドキドキとかワクワクっていう言葉って、江戸時代の町民文化から出てきたんです。動悸がするほどのことをドキドキと、気持ちがわきあがることをワクワクと。こういうのって、今まで自分が思ってたことを誰かに伝えたかったり共有したかったりという意味では、発明だと思うんです。もちろんラベリングという危険性はありますが。 でも、そういう「この気持ちを表現したい」とか「伝えたい」っていうことの繰り返しがクリエイティブとか、テクノロジーなんじゃないかと思ったときに、今回の作家の人たちに「今、あなたが伝えたかったり、共有したりしたい気持ちのためのきっかけって、どうやったら作れますか」みたいな話をしていきました。 ――ありがとうございます。最後に、この展覧会を通して届けたいメッセージを教えてください。 今まで言ったことの繰り返しになってしまうのですが、クリエイティブやテクノロジーは、新しい気持ちの交流を生み出すためのものだと思っています。ぜひ見に来てくださった方には、自分の中の気づいていなかった感情に出会ってほしいですし、他の方にもそれをシェアしてほしいなって思います。(取材・文:於ありさ) 「エモーション・クロッシング展」は、12月25日まで「SusHi Tech Square」にて開催中。