子のない資産家伯母の相続人は、きょうだい+甥姪の総勢10名…目をかけられた姪1人、養子縁組の申し出に歓喜も、相続対策の「恐ろしい落とし穴」に危機一髪
「養子縁組して私の子になって、財産を相続しなさい」
伯母が夫を見送ってひとり暮らしになってからは、山田さんの母親がずっとサポートしてきました。 「ほかの伯父伯母も、いとこたちも、叔母にまったく寄り付きませんでした。それなので、生活のサポートや介護は、伯母がホームに入るまでは、ずっと母と私が通ってやっていたのです」 そのようななか、伯母から山田さんに提案がありました。 「伯母から〈養子縁組して私の子になって、私の財産を相続しなさい〉といわれたのです」 山田さんはすでに両親がなく、独身であり、結婚の予定もありません。正社員で仕事をしていますが、特別収入が高いわけではないので、伯母の申し出はありがたいと考えています。伯母に急かされ、養子縁組の申請書の記入もすでに終わり、いつでも出せる状態だといいます。 養子縁組すれば、戸籍上、山田さんは伯母の子どもとなりますので、二男にあたる伯父や、代襲相続人になるいことたちに相続権が発生することはありません。 「この養子縁組の申請、提出しても大丈夫でしょうか? 何か問題がありますか?」
養子縁組のメリット・デメリット
打ち合わせに同席していた提携先の司法書士から、養子縁組と相続について説明がありました。 「もし、なにも相続対策をしないまま伯母様が亡くなると、遺産分割協議が必要になります。しかし、人数が多いと本当に大変ですよ」 「伯母様の意思は財産は山田さんに渡すことで固まっているわけですよね。養子縁組ではなく、遺言書を作成する方法もあります」 養子縁組のメリットは、相続人がひとりになり、争いがなくなることです。デメリットは相続税の基礎控除が1人分の3,600万円かしかない、ということです。 遺言書のメリットは、遺産分割が不要となり、被相続人の遺志が実現できることです。また、きょうだいには遺留分の請求権がないため、相続の仕方が確定できます。一方の基礎控除は法定相続人分をカウントできるので、9,000万円のままとなります。デメリットは遺言書の作成に費用がかかり、証人も必要になることです。 司法書士の説明に、山田さんは興味深そうに聞き入っていました。 基礎控除が10人分となる9,000万円あるのと、1人分の3,600万円しかないのとでは、相続税は大きく異なります。養子になれば、相続税の負担はとても大きいものになるといえます。 このように比較すると、養子縁組をすることで相続税が跳ね上がってしまうということが判明しました。 山田さんはすぐ、司法書士の説明を伯母に伝え、その後、速やかに公正証書遺言の作成が行われました。 「自分ひとりの判断で行動しなくて、本当によかった。最良の選択ができました」 最後の打ち合わせで、山田さんは明るい笑顔を見せてくれました。 相続対策は、財産総額、相続人の人数、それぞれの置かれている立場・状況など、さまざまな要素を勘案することで、最良の選択肢を探します。判断を急いだり、安易な決断をしてしまうと、あとから後悔することになりかねないため、十分な検討が必要だといえます。 ※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。 曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 ◆相続対策専門士とは?◆ 公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。 「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
曽根 惠子
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