境界知能の子どもを取り巻く厳しい現状「本当はやればできる子と思われ続ける人生…」特別支援教育を受けられないケースも
苦労しているけど、支援につながらない
軽度知的障害や境界知能の子は勉強面で苦労する場合が多いのですが、それがきっかけとなって支援につながるかというと、そうとは限りません。「勉強が苦手」ということで、医療機関に相談にくる家庭は多くないのです。 子どもが、「授業の内容がわからない」「授業中に指名されたとき、うまく答えられない」「先生の指示を聞き逃して、出遅れてしまう」といった場面を何度も経験して困っているのであれば、地域の教育相談窓口や医療機関に相談してもいいのですが、その段階で支援につながるケースは少数です。 子どもが心身の調子を崩したり、不登校の状態になったりしてから、初めて相談窓口を利用するケースのほうが多くなっています。
「勉強が苦手なだけでは相談できない」という誤解
そのような経緯で相談にこられた親御さんと話していると、「勉強が苦手なだけでは、こういうところで相談できないと思っていました」と言われることがあります。そして、以下のような話になります。 「授業についていけないのは、本人の努力が足りないからだと思っていた」 「勉強時間を増やして、みんなに追いつけるようにしなければ、と焦っていた」 「親が宿題をみるようにして、家庭学習の習慣をつけてきた」 「この問題は、家庭内の工夫で解決していくことだと考えていた」 「でも時間をかけてもうまくいかなくて、困っていた」 このように「勉強ができないのは努力不足であって、人に相談するようなことではない」と考えるのは、大きな誤解です。いろいろと工夫をしてもうまくいかなくて困っているのであれば、「勉強が苦手で困っている」ということを相談してもいいのです。 イラスト/村山宇希 書籍『知的障害と発達障害の子どもたち』より 写真/shutterstock
---------- 本田秀夫(ほんだ ひでお) 信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長。長野県発達障がい情報・支援センターセンター長。特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。 精神科医。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、1991年から横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授。2023年より長野県発達障がい情報・支援センターセンター長。発達障害に関する学術論文多数。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。 著書に『自閉症スペクトラム』『発達障害生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』『子どもの発達障害』『学校の中の発達障害』(以上、SB新書)などがある。 ----------
本田秀夫