ネットで増える“私刑”は許されるのか?
このようにネット上で“悪人”を追及する動きは珍しくない。サイト「現代ビジネス」の記事(2012年10月17日)では、ブロガーのイケダハヤトさんが、悪事を働いたとされる人物の個人情報を暴くことで処罰を図る「ネット自警団」と呼ばれる人たちの存在を紹介。記事によると、過去の事例として ・ツイッター上で悪事(飲酒運転、喫煙)自慢をした19歳の女子短大生の個人情報を暴き、ミクシィ、ツイッターを退会に追い込んだ(2011年) ・ホームレスをいじめたことをミクシィ上で自慢した大学生を内定取り消しにした(2009年) ・虚偽の申告でサイゼリヤから3000円の返金を得たことを自慢した男子高校生の、自宅の電話番号、学校名を暴き、自宅と学校に嫌がらせの電話を殺到させた(2008年) これらのケースを紹介。そのうえで、イケダさんはネットでの私刑について、「勘違い・人違いという初歩的なミスが発生しうる」「憂さ晴らしの域を出ない」などとして、否定的な見解を示している。それでも、ネット上では、「犯人がプライバシーで守られるのも変な話」「万引き被害者の心情としたら(顔写真公開も)理解できる」「悪い人を追及するのがなぜいけないのか意味が分からない」などと、肯定的な意見も少なくない。 著名人の中にもそうした意見はある。タレントの中川翔子さんも、自身のブログで「された側がされた損になる世の中じゃ嫌だな。意識的に窃盗してる犯人甘やかすことない。盗むって最低。犯罪なんだから」と述べ、顔写真公開にも理解を示す姿勢を見せた。 タレントの加藤浩次さんも「万引きで警察が、現行犯じゃなくて動くっていうのはあまりない」と指摘した上で、今回の騒動について「まんだらけさん的には、これはうまいことやった」と、テレビ番組で評価するコメントをしたと報道されている。 ただ、作家の芥川龍之介は、警句集「侏儒の言葉」で、「輿論(よろん)は常に私刑であり、私刑は又常に娯楽である。たといピストルを用うる代りに新聞の記事を用いたとしても」とつづっている。「新聞の記事」を「ネット」に置き換えれば、現代にもそのまま当てはまりそうな指摘だ。 被害を受けた当事者はともかく、そうでない第三者が“私刑”に走るのは、芥川に言わせれば「娯楽」なのだろう。前出の喜多弁護士は「私たちは、罰し合うのではなく、お互いに話をよく聞いて相手を尊重することにエネルギーを使った方が良い社会を作れるのではないでしょうか」と話している。 (文責・坂本宗之祐)