USJ「ドンキーコング・カントリー」に思う、シリーズの功労者たる悪役「キングクルール」とその配下たち不在のいま
テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)の新エリア、「ドンキーコング・カントリー」が2024年12月11日、オープンした。その名のとおり、任天堂の看板タイトルのひとつ「ドンキーコング」シリーズをモチーフとしたエリアだ。 【画像】キングクルールが彩った「ドンキーコング」シリーズの作品たち 厳密には1994年、スーパーファミコン向けに発売された『スーパードンキーコング』のシリーズのひとつで、2025年1月16日にHDリマスター版の発売を控える『ドンキーコング リターンズ』がモチーフとなっている。「ドンキーコング・カントリー」の名も、「スーパードンキーコング」シリーズの海外版の名称と同じで、その関連性の強さを滲ませている感じだ。 2024年11月26日をもって『スーパードンキーコング』は発売から30年を迎えた。そのこともあって、テーマパーク内のドンキーコングエリア誕生は大変めでたい出来事である。だが、「スーパードンキーコング」シリーズをリアルタイムで遊んだ世代からすると、このエリアには若干、“思うところ”があるかと思われる。 それはズバリ、『ドンキーコング リターンズ』をモチーフとしていること。 なぜ、それがリアルタイム世代に思うところを生じさせるのかの理由は明白である。『ドンキーコング リターンズ』は、「スーパードンキーコング」シリーズを盛り上げた“功労者”とも言える悪役キャラクターたちがまったく登場しない作品であり、件のエリアにも、彼らの姿がどこにもないからだ。 その功労者とは、ドンキーコングたちと何度もバナナをめぐって戦ったワニたち「クレムリン軍団」と、それを率いる大ボスの「キングクルール」。特にキングクルール(以下、クルール)は、「スーパードンキーコング」シリーズの象徴的悪役でもある。 ■作品ごとの変装、反則まがいな戦術の数々で強烈な印象を残したクルールの活躍と功績 クルールは、ドンキーコングたちが大事にしていたバナナの強奪を配下に命じた張本人としてデビューを飾った。ゲームの本編では最終ボスを務め、すべてのレベルをクリアした後に解禁される「キングクルールの船」で直接対決することになる。 その容姿は王冠を被り、赤いマントを羽織っているというキング(王様)の名に相応しいもの。さらに巨体とは裏腹の機敏な動きと、鉄球の雨で攻めてくるという、最終ボスに相応しい強敵でもあった。 1995年発売の続編『スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー』(以下、スーパードンキーコング2)にもクルールは登場。今度は前作主人公のドンキーコングを誘拐し、その身代金としてバナナを要求するという悪事を働いた。 続編では海賊の頭領を思わせる容姿の「キャプテンクルール」として登場。一見、別人……もとい、別のワニに見える。しかし、過去の「スーパードンキーコング」シリーズに携わったクルール名付けの親でもある、イギリスのゲーム開発会社「レア(RARE)」所属のクリエイターGregg Mayles氏は、(その質問をしたファンに対して)「違います、すべて同じワニの変装です」と自身のX(旧Twitter)で回答している(※)。 ※(本稿はGregg Mayles氏の発言を踏まえ、同一人物・変装設定を前提に執筆しました) そんなキャプテンクルールは、手持ちの巨大ラッパ銃による攻撃とブーストによる高速移動、透明化といった多彩な攻撃の数々で、主人公のディディーコングとディクシーコングのコンビを翻弄した。 さらに続く3作目『スーパードンキーコング3 謎のクレミス島』(以下、スーパードンキーコング3)と4作目『ドンキーコング64』にもそれぞれ、クルールは登場。『ドンキーコング64』では、2作目から続いた変装(コスプレとも言う)を止め、1作目と同じキングクルールとして登場する。ただ、完全に変装しなくなった訳ではなく、決戦でそれっぽいことをしている。 これら4作品に連続出演したことから、クルールと配下のクレムリン軍団は「スーパードンキーコング」シリーズの象徴的悪役としての地位を築いた感じだ。特にクルールは、「マリオ」シリーズにおけるクッパに当たるキャラクターでありつつも、強烈な個性と特色を持ちあわせていた。 ひとつは変装。最初の『スーパードンキーコング』に王様の姿で登場したと思ったら、次作では海賊の頭領へと容姿を改め、別のワニを名乗る。そんな作品ごとに異なるクルールと出会えるのは、マンネリを感じにくくする施策として機能していた。 しかも、基本的に変装した姿はトップシークレット。各タイトルの取扱説明書で、クルールは紹介こそされながら、姿は黒塗りで伏せられており、どんな姿をしているかはゲーム本編を最後までやり切るしかなかったのだ。 とは言え、それは発売から数ヶ月間に限られたこと。攻略本が発売される時期を迎えれば、トップシークレット扱いは解除されるようになっていた。 ただ、おかげで「今回のクルールはどんな変装をするのか?」との興味を抱かせると同時に、当人の個性も引き立ててもいた。とりわけ『スーパードンキーコング3』は、3作目ということから、シリーズを続けて遊んできたプレイヤーほど、変装への関心を抱きやすい下地があったと言える。実際に同作品でクルールは、科学者を思わせる容姿の「バロンクルール」という、新しい変装を見せている。 もうひとつが作品ごとで披露する戦術だ。中でも『スーパードンキーコング』での“フェイント”は、クルールの魅力と恐ろしさを最も体現した戦術と言ってもいいだろう。それを喰らって悲鳴をあげたリアルタイム世代は、きっと少なくない……いや、おそらく2024年現在も、新たな被害者を生み続けていることだろう。 そうしたよくも悪くも強烈な思い出として残りやすい、反則まがいの行為を平然とやってのけるのも、クルールの強烈な特色のひとつだったと言える。 ほかに『ドンキーコング64』では、ストーリーのイベントで部下の処刑を命ずる冷酷な一面も覗かせたりと、悪役としての凄味もプラス。また、同時期にはテレビ東京系列でCGアニメの『ドンキーコング』も放送。クルールとクレムリン軍団たちもレギュラーキャラクターとして登場し、悪知恵には優れるが、間抜けな一面のある悪役として描かれた。これらの活躍から、キャラクターとしてもさらなる深化が図られ、クルールは「スーパードンキーコング」シリーズの象徴的悪役としての地位を確固たるものにしていった。 だが、それほどの功労者でありながら、2010年に発売された『ドンキーコング リターンズ』には未出演。新キャラクターの「ティキ族」に譲る形となってしまった。 ■象徴的悪役としての地位を上げた2000年代の活躍。だが、矛盾だらけの誤解も生まれた? 「ドンキーコング」シリーズは、2002年に大きな転機を迎えた。それまでのシリーズを専属で開発してきたレアの離脱である。以降、「ドンキーコング」シリーズは制作体制が一新され、レア開発の新作は作られなくなった。 それと同時に、クルールと配下のクレムリン軍団も「ドンキーコング」シリーズに登場できなく……なってなどいない。時折、インターネット上で見かける一説だが、「クルールとクレムリン軍団のキャラクターとしての版権はレアとマイクロソフトが所持しており、今のドンキーコングには出演できない」というのがある。 断言しよう。この説はマユツバだ。なぜなら、レアの離脱後に発売された「ドンキーコング」シリーズにクルールたちの出演作が複数あるという、非常に大きな矛盾を生む事実が存在するからである。 もともと、レアの離脱以降、ディディーコングを始めとする「コングファミリー」、アニマルフレンドの「ランビ」に「スコークス」といった「スーパードンキーコング」シリーズオリジナルのキャラクターたちの版権は任天堂に移行している。 クルールとクレムリン軍団も同じだ。それを証明するかのように2003年、レアの離脱後初の新作として発売されたリズムアクションゲーム『ドンキーコンガ』には、クルールたちが堂々と出演している。 2005年にゲームボーイアドバンスで発売されたアクションゲーム『ぶらぶらドンキー』、その続編で2007年にニンテンドーDSで発売された『ドンキーコング ジャングルクライマー』では、ストーリーにおけるメイン悪役としてクルールとクレムリン軍団が出演。「スーパードンキーコング」シリーズ当時と変わらぬ活躍を見せている。 特に『ドンキーコング ジャングルクライマー』では、異星人の力を悪用して宇宙征服を目論むという、スケールの大きな悪事を働いている。さらにワームホール(※原文ママ)を発生させるワープ装置に巨大ロボット、宇宙戦艦を開発するなど、過去の「スーパードンキーコング」シリーズでもその一端を見せていた高い技術力をより進化させたことも描かれた。クルールとも本編終盤に戦うのだが、それがまた自然とニンテンドーDSの二画面力(?)を応用した戦術で襲い来るという、トンデモ極まりない戦闘になっている。 ほかに『ジャングルクライマー』と同じ、2007年発売のレースゲーム『ドンキーコング たるジェットレース』にも、クルールと配下のクレムリン軍団はプレイアブルキャラクターとして出演。 さらに2008年発売の『スーパーマリオスタジアム ファミリーベースボール』にも、クルールとクレムリン軍団が登場。これが彼らにとって初の「マリオ」シリーズ出演(およびマリオたちとの共演)になった。 一連の事実が示すとおり、「レアとマイクロソフトがクルールたちの版権を持っているから出演できない」との一説が「異議あり!」とツッコまれてもやむを得ないほど、ムジュンだらけなのは明らかだろう(ついでに書くと、これら出演作のエンディングで流れるスタッフロールにレアとマイクロソフトの名は一文字も記されていない)。 むしろ、レアの離脱後もクルールとクレムリン軍団は普通に「ドンキーコング」シリーズどころか、「マリオ」シリーズにまで出演していた。そして、象徴的悪役としての地位をさらに上げていたのである。 それがなぜ、例の誤解を生んだのか? それは一連の出演作が「スーパードンキーコング」シリーズほどの大ヒットに恵まれなかったのが大きいだろう。オブラートに包まず言えば、マイナー扱いされても仕方がないものだった。熱心な「ドンキーコング」シリーズのファンでなければ、見落とすのも無理はない作品の出演がほとんどだったのである。 そして、彼らが出演していない「スーパードンキーコング」シリーズ久しぶりの新作『ドンキーコング リターンズ』は、国内でも100万本近くを売り上げるという大ヒットを記録した。それが元で、例の誤解につながる“隙”が生まれることになったのでは……というのが、筆者の推測である。 繰り返しになるが、クルールとクレムリン軍団がレアの離脱を機に、シリーズに一切出演できなくなったという事実はない。むしろ、レアが離脱してからも彼らはバリバリに活躍していた。 それがたまたま、『ドンキーコング リターンズ』には出演しなかっただけなのである。 ■17年以上も功労者不在が続く「ドンキーコング」シリーズのいま だが困ったことに、クルールとクレムリン軍団は2024年のいまもなお、「ドンキーコング」シリーズへの復帰を果たせずにいる。 『ドンキーコング リターンズ』の大ヒットを受け、2014年には直系の続編『ドンキーコング トロピカルフリーズ』が発売された。しかし、クルールとクレムリン軍団はまたも未出演。「ザ・スノーマッズ」という、北極・南極圏の動物をモチーフにした海賊団がメイン悪役を務めるに至っている。 そして以降、「スーパードンキーコング」シリーズの系譜に連なる新作の展開は中断。Nintendo Switch向けの移植版が作られるという、小規模な動きに留まるようになってしまった。加えて2019年以降、『ドンキーコング リターンズ』からレアに代わる2代目として制作を担ったゲーム開発会社の「レトロスタジオ」は、『メトロイドプライム4 ビヨンド』の開発に長期間、付きっきりの状態になってしまう。 そのような事情からか、クルールとクレムリン軍団は復帰のチャンスに恵まれない状況に陥っている。気が付けば『ドンキーコング ジャングルクライマー』から17年以上、彼らは悪役としての活動が途絶えてしまっているのだ。出演にまつわる誤解が生まれる隙も、より大きく広がってしまっている感じである。 ただ、クルール自身は2014年発売の『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS / Wii U』の「Miiファイター」の帽子(※有料追加コンテンツ)として、一応の再登場を果たした。 そして、2018年発売の『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』で、クルールはファイターとして参戦。『スーパーマリオスタジアム ファミリーベースボール』から数えて、10年ぶりの外部作品への出演を果たした。 ちなみに彼の参戦を伝える動画の最後に表示されるコピーライトには、レアとマイクロソフトの名は記されていない(※後の「バンジョー&カズーイ」の参戦動画で初めて追記されている)。前述した帽子も同様で、公式サイトの紹介記載のコピーライトには一文字も記されておらず(※)、例の出演できない説を否定するひとつの材料になっている。 ※参考:大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS / Wii U:有料追加コンテンツ配信!!(※「コスチューム」タブの「3」のページにクルールのぼうしの情報が記載) また、『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』の前に出た『スーパーマリオ オデッセイ』にも、「都市の国」(ニュードンク・シティ)にクルールの名が出ている。クルール自身はさすがに登場しないが、これもまた「ドンキーコング」シリーズにとって、いかに彼が欠かせない存在なのかを物語る証と言ってもいいだろう。 2024年12月12日にYouTubeで公開された、クルールが堂々と登場する「Nintendo Switchで遊ぶ ドンキーコングの冒険」もまた然り。任天堂としても、彼のこれまでの功績は忘れていないものと思われる。 しかし、本家本元たる「ドンキーコング」シリーズへの復帰は前述のとおりだ。USJの「ドンキーコング・カントリー」も、モチーフが『ドンキーコング リターンズ』ゆえ、出番がもらえない立場に置かれてしまっている。 「ドンキーコング」シリーズの現状を踏まえれば、クルールとクレムリン軍団の復帰にはまだ、さらなる時間がかかると思われる。そして、必ずしも次の新作に出演できるとも限らない。「ティキ族」や「ザ・スノーマッズ」のように、新顔が起用される線も十分に考えられる話だ。仮に『ドンキーコング リターンズ』以降、世界観と設定のリブートを実施したとの裏事情があるとすれば尚更である(※念のためだが、そのような事実が存在するかは公式に出ていないため不明)。 とは言え、ドンキーコングたちと共に「スーパードンキーコング」シリーズを盛り上げた象徴的な悪役にして功労者。このまま表舞台に復帰できず、徐々に忘れ去られていくのは、あまりにも悲しく、見過ごせないものがある。 これから「ドンキーコング」シリーズがどんな展開を見せていくのかは分からない。だがもし、『ドンキーコング トロピカルフリーズ』の次に連なる新作が来るのなら、3度目の正直を果たしてほしい。本当の意味での“リターンズ”を決めていただきたい。 かつてクルールの活躍を毎回楽しみにしていた人間のひとりとして、それを切に願うこのごろである。できることなら、『ドンキーコング リターンズ』のHDリマスター版に追加の隠しボスとしてクルールが登場……なんてことがあればと思うのだが、さすがに夢物語すぎるだろうか。
シェループ