【霞む最終処分】(47)第9部 高レベル放射性廃棄物 寿都町㊤ 風のまち投じた一石 地域振興に交付金活用
北海道旭川市出身の片岡は専修大商学部を卒業後、東京都内の企業で営業職を経験した。帰郷後、寿都町職員となり、2001年に町長に就いた。民間で培った「稼ぐ力」を生かし風力発電機の増設や、ふるさと納税の返礼品の充実などで歳入増を図ってきた。 ただ、町の将来的な財政見通しは明るいとは言い難い。風力発電機は13基が稼働し、売電収入は年間7億円余りに上る。固定価格買い取り制度(FIT)に基づき20年間は安定した財源となるが、風力発電機は順次、FITの期限切れを迎える。売電収入が減るのは確実だった。 「新たな地域振興策はないものか」。片岡は2019年、町議や産業団体関係者を交えたエネルギー政策勉強会を設立した。持続可能な町づくりのため、エネルギー分野を軸にあらゆる可能性を探るのが目的だった。 同年末、最終処分事業の説明役として招いた経済産業省職員から高レベル放射性廃棄物の現状を聞いた。文献調査を受け入れると、最大20億円の交付金が得られる。概要調査に進めば、さらに70億円が交付される。一般会計の当初予算規模が50億円余りの町には魅力的な数字に映った。「悪い話じゃないな」。片岡の〝営業マン〟としての嗅覚が反応した。ひそかに応募に向けた検討を始めた。(敬称略)
※高レベル放射性廃棄物 原発の使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出す再処理で出た廃液をガラスと混ぜて固めた廃棄物。極めて強い放射線を長期間出し続ける。国は地下300メートルより深い岩盤に埋める地層処分で数万年以上、生活環境から隔離する方針。