「薄毛の人は絶倫」は科学的に正しい? 男性ホルモンの手助けで老いも若きも“元気不足”を解消できる【和田秀樹×池田清彦】
「臓器別診療」の大問題
池田 テストステロンはもともと人間の体に備わっているものだから、投与による副作用はそうひどくない。ただ、元気になって活性酸素が増えることで、がんになりやすくなるリスクがあるそうですね。 和田 そういうデメリットも指摘されています。それと、人によっては性欲が過剰になったり、攻撃性が強まったりする場合もあります。テストステロン値が低い人が打つ分には比較的副作用は少ないですね。 池田 このくらいの低さなら打っても大丈夫、と目安が設けられている。 和田 そうです。きちんと目安に従い、必要な人にはテストステロンを補うほうがいいと思うのですが、日本ではそれがまったくできていない。その背景には臓器別診療という問題があります。 池田 テストステロンを含めて、ホルモンは全身に効くものだからね。患者の立場では、どの診療科に相談すればいいのかわからないよな。 和田 本来、ホルモンは内分泌科の領域ですが、男性ホルモンというとどうしても泌尿器科が扱う分野のようになっています。こういう境界領域の問題がテストステロンの普及を阻んでいる。 男性ホルモンであるテストステロンは、中年以降は年齢とともにジヒドロテストステロン(DHT)に変化します。最近はAGA(男性型脱毛症)をケアするクリニックが増えましたが、そこで使われるプロペシアという薬にはこのDHTを抑える効果があるんです。
「ハゲの人は精力が強い」は本当か
池田 DHTが男性ホルモン受容体と結びつくと頭が禿げる、つまりハゲの素。 和田 DHTは前立腺肥大も誘発します。前立腺が腫れると、尿道が縮まってしまうのでおしっこが出にくくなる。 そこでこのプロペシア、テストステロンがDHTになるのをブロックする薬に注目が集まりました。前立腺の肥大も収まるし、禿げにくくもなる、いいことずくめの薬とされていましたが、実はけっこうな割合でED(勃起不全・勃起障害)を発症することがわかってきました。 池田 人間の体というのは、実に上手くできてるよね。 和田 DHTはテストステロンの約3~4倍も強い男性ホルモンですから、歳をとるほどDHTが増えるのは、加齢に適応するためには必要な現象だということです。 よく「ハゲの人は精力が強い」と昔からいわれますが、与太話ではなくて科学的根拠があった。適応現象を薬で安易にブロックしてしまうことで、結果的に男性ホルモン不足が起こってしまうのです。 でも、これにも簡単な治し方があります。 池田 テストステロンを打つんですね。テストステロン自体はハゲの原因ではないから、バンバン打っても薄毛に影響がないし、性欲も回復すると。 でも、そういう全身的なことを診てくれる医者は少ないんじゃない? 和田 そうですね。プロペシアを扱っているのは皮膚科の医者なので、そういうホルモン医学のことをほとんど知りません。だから、髪が生えてきたのはいいけどEDに悩まされている、という男性は実はかなりいます。 ※新潮新書『オスの本懐』より一部抜粋・再編集。 ※記事内で言及のある医療アドバイスについては、医師や専門家にご相談のうえ行なってください。
デイリー新潮編集部
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