《実名告発》神父から受け続けた性暴力、被害者女性「従えば苦しみから救われると信じていた」
信者を言葉巧みに誘導し、性交を強制する神父
しかし、田中さんの信仰心を利用する人物が現れる。長女が深刻な病気にかかり、大きな手術を受けなければならなくなって、不安でパニックになってしまったときのことだ。 「とにかく娘が死なないよう神父さんにお祈りをお願いしました。そのとき『告解(ゆるしの秘跡)』と呼ばれる儀式で、神父を通して悩みや苦しみを神様に話せば心が穏やかになれると言われたのです」 映画やドラマでも教会での告解のシーンはよく描かれるので、イメージできる人も多いだろう。田中さんは、当時通っていた長崎の「カトリック西町教会」で、前出のチリ人神父に過去の性被害を打ち明け、救いを求めた。 その後、長女は回復して元気になったが、神父からは信仰とは関係のないことを頼まれることが多くなったという。 「日本語を教えてほしいとか、健康診断を受けたいから泊まれる病院を探してほしいといった連絡があり、話をする機会が次第に増えていったのです。そして『苦しみから解放されるためにはやり直しをしなければならない』と言われ、霊的指導という目的で性交を強いられるようになりました」 田中さんには夫もおり、「なぜ抵抗しなかったのか」と思う人もいるかもしれない。しかし、過去に性被害に遭い、PTSDになっている田中さんは、強圧的な態度の人に会うと、恐怖で抵抗できなくなり、「逃げると殺される」「自分が悪い」と思い込んでしまう。さらに「神父に従えば苦しみから救われる」という洗脳もあったという。 「治療と称する性交で、写真や動画を撮影されることもあり、ただただ怯えるばかりでした。苦しみから解放されるどころか、苦しみが増すばかりで、精神科の医院に通って治療を受けたのですが、そこで初めて神父の行為は性暴力だと認識できるようになったのです」
カトリック修道会が組織ぐるみで隠蔽
田中さんはまず長崎大司教区人権相談室に神父の性加害を訴え、その後、神父が所属する神言修道会に抗議を行った。修道会は神父の罪を認め、「聖職停止令」を交付。その理由は次のように明記されていた。 ・性犯罪を行い、貞潔の誓願を破ったと告発されていること ・彼の司祭としての行動は信者の間に嫌悪感を抱かせたこと ・将来スキャンダルを引き起こす可能性があること 修道会は神父に100万円を渡して母国・チリに帰国させ、3年間カウンセリングを受けさせるという指導を行った。 しかし田中さんに大きな衝撃をもたらしたのが、その神父が再来日し、日本人の女性信者と結婚し、還俗して日本国内で生活していたという事実だ。修道会はそのことを知っていたにもかかわらず、田中さんには「チリに帰国したままだ」と伝えていたという。 「すぐに日本に戻ってきていたなんて、罪の意識があるとは思えません。修道会も私が受けた苦痛をまったく理解せず、神父の逃亡を手助けしていたのだと失望しました」 修道会は一度は神父の罪を認めながらも、朝日新聞の取材には「神父は性行為を否定していた」と回答している。さらに田中さんのことを「精神科に通っていて妄想がある」と書いた文書を神父たちに配るといった行為もしていた。 田中さんの代理人である秋田一惠弁護士は「神父は告解を利用して彼女の重大な秘密を知り、それに乗じて性加害を繰り返した。修道会は性被害の事実と加害者を組織的に隠蔽している」と非難している。 田中さんは、被害時の画像や動画が流出することを恐れており、受け渡しを求めているが、修道会から対処の連絡はない。現在も抑うつ状態が慢性的に続いており、精神科医のサポートを受けているが、苦しい日々を送っている。