黒沢清監督、菅田将暉を「誰の目も釘付けにする俳優」と絶賛 “集団狂気”を描くサスペンス・スリラーで初タッグ
俳優の菅田将暉と映画監督の黒沢清が初めてタッグを組んだ映画『Cloud クラウド』が、今年9月に公開されることが決定した。菅田は「生活の中に潜む、怖さとユーモア。 黒沢監督の頭の中が毎日少しずつ開示されていく撮影は、とても楽しく、ぜいたくな時間でした」とコメント。黒沢監督も「菅田さんは、誰の目も釘付けにする俳優」などと絶賛している。 【画像】新たな魅力を発揮する菅田将暉の出演シーン 『スパイの妻』(2020年)で、「第77回ベネチア国際映画祭」銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した黒沢監督が映画最新作に選んだのは、顔のみえない社会で拡散する、憎悪の連鎖から生まれる“集団狂気”を描いたサスペンス・スリラー。 黒沢監督は「現代日本の片隅で、時折まったく無目的と思われる暴力事件が起きることがある。原因を探っていくと、そこにはちょっとした恨みやムシャクシャした気分がインターネットによって集結し肥大していくシステムがあるようだ。私はこうした現象がアクション映画の題材になるのではないかと考え、この企画をスタートさせた」と明かす。 『花束みたいな恋をした』(21年)、『ミステリと言う勿れ』(23年)など、出演作の大ヒットが相次ぎ、日本映画界をけん引する存在となった菅田は、今回の出演オファーを即決という。『Cloud クラウド』では「ラーテル」というハンドルネームを使い、転売で稼ぐ主人公・吉井良介を演じる。 菅田が初めて黒沢監督と対面したのは、主演作『共喰い』(13年、青山真治監督)で参加した13年の「第66回ロカルノ国際映画祭」。22年に57歳の若さで故人となった青山監督から紹介された時以来、10年ぶりの再会となった(本作の撮影は、昨年11月25日から12月22日に行われた)。 主演の菅田について黒沢監督は「菅田さんにお願いした主人公吉井良介は、真面目で一途な悪党という、現代日本映画ではほとんど見かけない人物である。キャラクターの分類としては矛盾しているのかもしれない。しかし菅田さんはこの難しい役を極めて繊細に、かつ堂々と演じてくれた」と称賛している。 ■菅田将暉(主演)のコメント全文 生活の中に潜む、怖さとユーモア。 黒沢監督の頭の中が毎日少しずつ開示されていく撮影は、とても楽しく、ぜひたくな時間でした。 ピュアで歪な人間のアクションがたまらない。とにかく完成が待ち遠しい。 映画『Cloud』よろしくお願いします。 ■黒沢清(監督・脚本)のコメント全文 (作品について)現代日本の片隅で、時折まったく無目的と思われる暴力事件が起きることがある。原因を探っていくと、そこにはちょっとした恨みやムシャクシャした気分がインターネットによって集結し肥大していくシステムがあるようだ。私はこうした現象がアクション映画の題材になるのではないかと考え、この企画をスタートさせた。 主人公は、ささやかな金儲けによって少しでも人より優位に立ちたいと願う、ごくありふれた男である。この人物が不用意に周囲の恨みを買い、最後には命を賭けた死闘へと引きずり込まれる物語だ。 しかし撮影が進むにつれて、私はこの映画がそう簡単にスカッとするアクションにはなっていかないことに気づいた。その理由のひとつは、主演の菅田将暉が驚くべき演技力でこの人物に深い陰影と複雑さをもたらしてくれたこと。もうひとつは、この死闘が思いがけず“戦争”の様相を見せ始めたことだ。金儲けと復讐が折り重なって増幅され、ついに暴力が作動し、気が付いたらもう引き返せなくなっている。現代の戦争も、ひょっとするとこのようにして起こるのかもしれない。 (主演・菅田将暉さんについて)菅田さんは、誰の目も釘付けにする俳優だ。何と言ってもあの顔つき、そして声、立ち姿、奥の方にいても一発で菅田将暉とわかる唯一無二の個性があらゆる場面から立ち昇る。にもかかわらず、人混みの中だと市井の人物に溶け込んでしまう一般性、庶民性のようなものも同時に持ち合わせている。持って生まれた資質と計算とを巧みに組み合わせることのできる実に聡明な方なのだろう。 そんな菅田さんにお願いした主人公吉井良介は、真面目で一途な悪党という、現代日本映画ではほとんど見かけない人物である。キャラクターの分類としては矛盾しているのかもしれない。しかし菅田さんはこの難しい役を極めて繊細に、かつ堂々と演じてくれた。繊細な部分が計算で、堂々としたところが資質なのか、あるいはその逆なのか、どちらかはわからない。いや、どちらも計算かもしれない。それとも全ては直感なのか。正体は不明だが、この正体不明こそ大スターの証なのだなとあらためて納得した。