総選挙前倒しして負けた英メイ首相 「北アイルランド」が新たな火種に?
8日に行われたイギリスの総選挙では、選挙前に議会下院で過半数を占めていた与党の保守党が13議席を失い、単独過半数に達しないというまさかの結果に終わった。女性の選挙資格が男性と同等になった1929年以降、イギリスではいずれの政党も議会で過半数を制することができなかった事例がこれまでに3度あったが、今回の選挙でも保守党が議席の過半数を獲得できなかったため、4度目の「宙づり国会(ハング・パーラメント)」が誕生した。19日から始まるEUとの本格的な離脱交渉をスムーズに行うため、メイ首相は10議席を獲得した北アイルランドの民族政党「民主統一党(DUP)」との閣外協力を模索しているが、依然として保守党内部にはメイ首相の責任を問う声が根強く残る状態だ。また、保守党とDUPとの連立が北アイルランド和平に影を落としかねないという懸念も浮上している。 【写真】「ハードブレグジット」「単一市場」とは? EUと英国の複雑な関係
総選挙前倒しのきっかけは欧州委員会委員長の助言?
2010年5月に行われた総選挙では、保守党が当時与党であった労働党を上回る議席を獲得。しかし、保守党は過半数を獲得できなかったため、中道左派の自由民主党と連立政権を樹立し、2005年に39歳で党首に就任していたデーヴィッド・キャメロン氏が首相に任命された。2015年に行われた総選挙で保守党は前回よりも28議席増となる330議席を獲得。政権基盤を固めた形で第2次キャメロン内閣がスタートするが、翌年に行われたEUからの離脱を問う国民投票で離脱派が勝利。国民投票の結果が出て間もなく、キャメロン首相は辞任する意向を表明し、その後、内務大臣のメイ氏が新首相に就任した。 英議会下院の任期は5年。つまり、2015年に総選挙が行われており、首相の交代劇があったものの、2020年までは与党の保守党は過半数を維持したままの状態でいることができた。しかし、メイ首相は4月に前倒し選挙を実施する意向を表明。2011年7月に成立した法律によって、首相は議会下院で3分の2以上の承認がない場合は一部の例外を除いて解散権を発動できないため、わざわざ議会下院の承認を得て、メイ首相は前倒し選挙に挑んだのだ。保守党は317議席を獲得したものの、前回の選挙時から13議席を失う結果となった。これによって議会下院で過半数を確保できなくなった保守党にとって、13議席減は数字以上にダメージが大きく、事実上の敗北となった。 メイ首相は3月29日に欧州連合基本条約(通称リスボン条約)50条を発動し、EU側にイギリスの離脱を正式に伝えた。イギリスからの通知を受けて、向こう2年以内を原則として、イギリスとEUの間で離脱を完了させるための様々な交渉が行われる。離脱交渉をスムーズに進めるうえで、議会における力を強固にすべきとの指摘は以前から存在し、数か月前の支持率調査では保守党が労働党を大差でリードしていたため、メイ首相らが勝算を見出したことは想像に難くない。しかし、2020年までは議会下院で過半数の維持が確定しているにもかかわらず、なぜメイ首相は動いたのか? 英紙オブザーバーは10日、欧州委員会のユンケル委員長がメイ首相に前倒し選挙の実施を駆り立てたと伝えている。「今よりも多くの議席を確保して、より安定した政権基盤のもとで離脱交渉に臨んでほしい」とユンケル委員長がメイ首相に伝えたと、同紙は報じている。 ユンケル委員長からの「要請」が前倒し選挙の実施にどれほどの影響を与えたのかは不明だが、保守党は総選挙で事実上の大敗を喫しており、党内部にはメイ首相の責任を問う声が現在も少なからず存在する。10日には選挙公約の作成に携わった2人の首相補佐官が辞任を表明したが、2人はメイ首相の最側近として、他の閣僚よりも強い信頼関係でメイ首相と繋がっていたとされる。「2人が解任されない場合、あらためて党首選挙を行うべきだ」との声が保守党議員から相次いで出た矢先の辞任表明は、党内におけるメイ首相の求心力低下を露にした。