『FFXIV』「パッチ 6.xシリーズ」の集大成となるサウンドトラックがリリース!ゲームコンポーザー・祖堅正慶・今村貴文・石川大樹が語る制作裏話【インタビュー】
「FF」好きはぜひこのディスクを手に取って聴いてほしい
◆個人的に印象深いのは、「命の天秤 ~輝ける神域 アグライア~」。こちらは祖堅さんが作曲を担当されていますね。 祖堅:これは「ミソロジー・オブ・エオルゼア」の方向性を決めるにあたって、だいぶ試行錯誤した曲ですね。神々しい方々とのバトル曲ではあるけれども、24人のアライアンスレイドだったので、そのコンテンツをどう音楽で盛り上げればいいのか、世界観はどうするのかということに時間がかかりました。あと、この曲はteaさんという方にボーカルをお願いしたのですが、この頃はコロナ禍で外出を控えていた時期だったんです。それでもレコーディングをしないといけないスケジュールで、ちょっと特殊なリモートレコーディングをすることになりました。 ◆特殊? 祖堅:はい。歌唱しているteaさんは事務所のスタジオでレコーディング、そしてオーストラリアにいるエンジニアを通じて、僕が自宅からディレクションをするという3拠点でリモートしながら制作したんです。こんなスタイルでレコーディングできる時代になったんだなと思いましたね。 ◆コロナ禍で制限されたこともあったけれど、逆にそういう発見もあった。 祖堅:そうなんですよ。意外とリモートレコーディングもいけるんだなと分かりました。 ◆今でもそういうリモートレコーディングをやるときもある? 祖堅:ちょくちょくありますね。スケジュールの都合が合わないときに便利ですし、作業スピードがぜんぜん違う。海を越えて一緒に制作もできますし。いちいちスタジオにデータを持っていかなくても、その場でやり取りをして完パケまで持っていけますからね。元々そういうやり方自体はコロナ禍前からあったとは思いますが、スタジオに行くというのが前提になっていて、ほとんど活用されていなかったんじゃないかな。発見がありましたね。 ◆先ほどお話いただいた「ゴルベーザ四天王とのバトル ~禁断の記憶~」ほか、「パッチ 6.xシリーズ」には『FFIV』の名曲がいくつも採用されています。例えば、ゼロムス戦の「最後の闘い (FINAL FANTASY IV) ~暁月~」と「赤い翼 ~暁月~」。 今村:サントラのコメント(※今作Blu-rayの本編映像再生中に読める、各曲のミュージシャンズコメント)にも書きましたが、「最後の闘い (FINAL FANTASY IV) ~暁月~」は僕自身も締め切りと戦っていました。曲的には打ち込み系のサウンドを混ぜているのですが、恐らく発注者の方もそういう方向性にしたら僕が食いつくと分かっていたんじゃないかな。まんまと乗せられて、気合を入れて作っていました(笑)。 ◆「赤い翼 ~暁月~」は、祖堅さんが編曲されていますね。 祖堅:すごく直球に編曲しました。メロディはラッパなんですけど、打ち込みだとどうしても原曲の激しさを表現できなくて、僕が吹きました。ただ、家でラッパを吹いたので、ご近所の方々には迷惑をかけたと思います……。そうせざるを得なかったとはいえ、ごめんなさい、周りの人! ◆その他、今回のサントラでお三方が読者のみなさんに聴いてほしい曲を教えてください。 石川:多いので悩みますが、「躍動する大地 ~喜びの神域 エウプロシュネ~」にはちょっと触れておきたいです。この曲も「ミソロジー・オブ・エオルゼア」の中ボス戦の曲なのですが、元々の発注リクエストがケルト音楽だったんです。ケルト音楽って踊りの音楽で軽快なんですけど、中ボスたちは壮大な存在が多かったので、そのバランスを取るのが難しかったですね。冒頭のヴァイオリンは僕が弾いているのですが、結構頑張りました。 ◆ご自身で弾かれたんですね! 石川:先ほどの祖堅さんと同じく、やっぱり打ち込みだとままならないことがあって。これも近所の方にたぶんご迷惑をおかけしました。申し訳ございません! 今村:「パッチ 6.xシリーズ」を通して自分のなかで渾身の一曲だと思っているのは、事件屋エンディングテーマである「ときめき紳士エスコート」かな!(笑) 祖堅:そこかぁ(笑)。 今村:インパクトが強かったですね。人生のなかでこういうのを何曲くらい作れるんだろうと思いながら制作しました。この曲はなるべく昔のアニメのエンディングっぽく、独特な雰囲気で作ってほしいというリクエストがあったんです。参考曲をいただいたのですが、昔のアニメで使っていたような音を今の機材で出そうと思っても、ないんですよね。だから、どうやって制作しようかとかなり悩みました。そういう苦悩を乗り越えて作った一曲です! 祖堅:後輩たちが頑張った曲をまずは聴いてください。あえて自分の曲で選ぶとなるなら、「月満ちる夜 ~喜びの神域 エウプロシュネ~」かな。この曲は麦野優衣さんという方に歌唱をお願いしたのですが、社内の会議で「麦野さんという方にお願いしようかと思っている」と共有したら、今村くんが急に「えっ、麦野さんですか!?」と反応して。 今村:はい。僕の友達だったんです。 ◆なんと! 今村:しかも、編曲で関わってもらっているTomoLowさんは僕の先輩でして。知り合いが集結していて、僕としてもちょっと特別な思いがある一曲になりました。 祖堅:あと、麦野さんが歌っている後ろで合いの手で女性コーラスが入るのですが、プロみたいに上手な方が歌い上げるとちょっと違うなと思って。ここは、カラオケで上手くらいの人にやってほしいなと思ったので、あえてサウンドマネージャーの女性ふたりに歌ってもらいました。麦野さんと同じ日にレコーディングしたのですが、麦野さんの熱がだんだんと上がってきて、ふたりにディレクションをしてくださったんですよ。それならもう最後までやってもらおうと思って、僕は後ろでコーヒーを飲んでいました(笑)。とかやっていたら、この曲を東京ドームで自分が歌う羽目になるというね。 石川:つけが回ってきた(笑)。 祖堅:そう。あのときは「英語で歌えてすごいね」なんて他人事でしたが、まさか自分で歌うことになるとは。大変さが身に染みて分かりました。いろいろな思い出がある曲です。 ◆最後に、本サントラを楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。 石川:『FFXVI』と同時並行しての制作でしたが決して手は抜かず、チームで力を合わせて作りました。サントラを聴いて、ゲーム体験を思い出していただけたら幸いです。 今村:これから新拡張パッケージ『ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー』が待っています。このサントラを聞きながら「こういう物語だったな」というのをおさらいしてもらって、いま一生懸命に制作している『黄金のレガシー』のスタートを楽しみに待っていただければと思います。 祖堅:今回、バラエティに富んだサウンドトラックになったかなと思っています。過去作のアレンジなど、『FFXIV』じゃないと味わえない楽曲もたくさんありますし、『FFXVI』コラボで使用された曲も収録されています。「FF」シリーズが好きな方は、ぜひこのディスクを手に取って聴いてほしいですね! お得情報としては、EXTRA MOVIEとして、ラスベガスとロンドンで行ったファンフェスのライブ映像の一部が入っています。このサントラ用にミックスし直しました。さらに、全曲のMP3データも入っていますし、サウンドスタッフが必死の思いで撮ったスクリーンショットもスライドショーで楽しめます。特に「ミソロジー・オブ・エオルゼア」の楽曲はコンテンツを楽しんでいる一般のプレイヤーの方々に迷惑をかけないように、しっかりとバトルをしながらもいいショットはバッチリ押さえるという、スタッフたちはかなり必死でスクリーンショットを撮影してきました。できれば映像と音楽を合わせてゲーム体験を振り返ってみてください。よろしくお願いします! ●photo/徳永徹 text/M.TOKU © SQUARE ENIX
M.TOKU
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