YAECAの二人が語るモダンで心地いい“じゅうたん”論。山形緞通と共に生み出した〈NEW CRAFTON〉。
世界に類をみない技術と誠実なものづくりに、すっかり魅せられた服部さんと井出さん。〈山形緞通〉では従来、職人の手織りによる華やかな色柄のじゅうたんが多く作られているのだが、二人は「この技術やクオリティを生かしながら、今の住宅に合うプレーンなものが作れないか」と考えた。なぜなら、住まいの床を素材感や質感で選ぶ人が増えていると感じていたから。「素材感を大切に考える場合、色はナチュラルやグレーといった主張のないもののほうがいい気がしたんです」。 そんな二人が注目したのは、〈山形緞通〉が1960年代から手がけている「クラフトン」。フックガンという工具で羊毛を打ち込み、刺繍のように織りあげる“手刺しじゅうたん”だ。「機械織りと手織りの中間のような技法ですね。制作期間やコストを抑えながらも、密度が高く温かみのあるものができる。これなら一般の住宅にも取り入れやすくて、しかもクオリティが高い無地のじゅうたんが作れる!と思いました」(井出さん) 色調は現代の暮らしに溶け込むことを基準に厳選した。「ポイントの一つは明るさ。周りの光を吸収してしまう色ではなく、空間が明るくなるような色を選びました。また、一見、単色に見えますが、実際は複数の色をブレンドした杢カラー。無地であっても色に奥行きが生まれるし、ホコリも目立ちにくいんです」と服部さん。色を考える過程では、〈山形緞通〉に残る膨大な資料にも目を通した。「アントニン・レーモンドの妻でテキスタイルデザイナーだったノエミ・レーモンドが、展覧会や住宅のために緞通を作ったことがあって。その時の糸サンプルを参考にさせてもらいました。僕たちの好きな色調とよく似ていたんです」 こうして2023年11月、新たなじゅうたん〈NEW CRAFTON〉が完成した。糸はやや細番手の上質な羊毛を採用。色はナチュラル系、ベージュ系、グレー系それぞれに濃淡を揃えた全6色だ。今後は染色をせずに元の羊毛の色を生かした“原着毛”でも作れるよう研究中だという。