鎧の威 (おどし)の文様を思わせる凜とした常磐色の紬に、父方の伯母様が描いた大輪の牡丹の染め帯をコーディネート。

たしかにどれほど美しいきものを着ても、着ている本人が暑苦しそうにしていては、周囲を幻滅させてしまうだけだ。暑い日でも限りなく楚々と軽やかに、凛としていたい。となれば今年は春先から秋口まで単衣を活躍させられるぞ。さて、どんな柄の単衣ならば春や秋にも着られるだろう。きもの選びの楽しみが、また一つ増えた。

自宅で気軽に、おもてなし紬

毎日きもので過ごしていたというお母様に倣い、肩肘張らない単衣の紬でお客様をお迎え。

「母は父と結婚して以来、家でもずっときもので過ごしていました。割烹着を着て台所に立ち、朝は母の衣擦れの音で目が覚めたものです」──。そんなお母様の姿と重なるような割烹着姿を、今回は『きものsalon』（2024年春夏号）でご披露くださいました。 「ゴールデンウィークの頃に自宅でお客様をお迎えする日には、仰々しい印象に映らない濃い地の紬で。料理を振る舞い細やかに立ち働くシーンでは、単衣の軽やかさが快適です。ほぼ毎日、きもので暮らしていた母の箪笥に、単衣が多く残っていたことが頷けます」と阿川さん。

時代を経たお母様譲りのコーディネートに、格子の帯揚げが今様の気分を映して。

「ゴールデンウィークの頃に自宅でお客様をお迎えする日には、仰々しい印象に映らない濃い地の紬で。料理を振る舞い細やかに立ち働くシーンでは、単衣の軽やかさが快適です。ほぼ毎日、きもので暮らしていた母の箪笥に、単衣が多く残っていたことが頷けます」と阿川さん。

自宅でお客様を迎える日は、ご覧のとおり矢の字結びに。割烹着を脱いだ姿にもお洒落の心意気が漂います。

この日の撮影では、雨絣と十字絣をリズミカルに散らした藍地の単衣に、気取りのない琉球文様の半幅をコーディネート。教科書どおりの単衣暦の時季をフライングする際には、「半衿を塩瀬にするだけで、一見すると“袷”を着ているようにも見えます」と、従来通りのきもの暦を大切に思う美意識を細部で表現するそうです。

爽やかな薄藍地に、リズミカルな花と伸びやかな茎の曲線を染めた紬（左）や、薄墨色に幾何学的な絣模様を織り出した紬（右）など。肩肘張らない単衣は、自宅でのおもてなしのシーンにも好適。

本誌には掲載していない割烹着をとった姿をはじめオフショットまで、阿川さんの“おもてなし紬”をご覧ください。

阿川佐和子（あがわ・さわこ）

©Akinori Ito

作家・エッセイスト　1953年東京生まれ。大学卒業後、テレビ番組でのリポーターを機に、報道番組でのキャスターや司会を務める。映画やドラマに出演するなど女優としても活躍。『週刊文春』（文藝春秋）では対談「阿川佐和子のこの人に会いたい」を、『婦人公論』（中央公論新社）、『波』（新潮社）他では多くのエッセイを連載。テレビ朝日系列『ビートたけしのTVタックル』にレギュラー出演中。『話す力　心をつかむ44のヒント』（文春新書）他、著書多数。

撮影／森山雅智(人物)　西山 航(静物、本誌)　ヘア＆メイク／田中舞子(VANITÈS)　着付け／石山美津江　構成・取材／樺澤貴子