水鳥の胃からはワカサギがたくさん 凍らない湖、捕食被害問題に 「体力的にきついけれど…」 毎日追いかけっこ、漁協ため息
長野県の諏訪湖で減るワカサギ
船体に波が打ち付け、冷たい水がシャワーのように降り注ぐ。雪もちらつき、強風に凍える記者の体をさらに冷やした。前方に見えるカワアイサやカワウの群れに猛スピードで近づくモーターボート。水鳥は一斉に飛び立ったが、数百メートル先にすぐ着水し、追いかけっこは延々と続いた。 【グラフ】20年以上でこんなに減った諏訪湖のワカサギ(推定資源量)
毎日交代で水鳥と1日中「追いかけっこ」
長野県の諏訪湖では、魚食性鳥類によるワカサギの捕食被害が問題になっている。実態を確かめようと1月23日、諏訪湖漁業協同組合(諏訪市)などが続ける追い払いに同行した。 「湖が結氷しなくなり、ワカサギが食べられやすくなっている」と、藤森恵吉組合長(73)=諏訪市=は嘆く。冬鳥が飛来すると、組合員は毎日交代で朝から夕方まで船に乗り、カワアイサやカワウを追いかける。「船が近づくと胃の中身を吐いて体を軽くして逃げる。吐いた物を見るとワカサギがたくさんなんだ」と説明する。
もう見られない「穴釣り」の光景
冬の諏訪湖はかつて分厚い氷が湖面を覆った。ワカサギを狙って氷に穴を開け、釣り糸を垂らす「穴釣り」を楽しむ人々でにぎわった光景はもう見られない。
「鳥をいじめるようなことはしたくないけれど」
諏訪湖のワカサギは1914(大正3)年から2年かけて茨城県・霞ケ浦から移植。安定的な漁獲を目指し漁協が採卵、受精卵の放流に取り組んできた。だが2016年夏にワカサギが大量死。県水産試験場諏訪支場(諏訪郡下諏訪町)の調査によると、それから現在までワカサギの数は低調に推移している。 漁協の組合員は70、80代が中心だ。この日、藤森組合長と一緒に追い払いに出た理事の原三雄さん(73)=岡谷市=は「体力的にきついし、鳥をいじめるようなことはしたくない」と話す。藤森組合長は「諏訪湖が凍ればこんなことしないで済むのに」とため息をつく。
スーパーに並ぶのは秋田県産
記者が暮らす諏訪市のスーパーに並ぶワカサギは秋田県産だ。水鳥と人の営みが共存することの難しさを、記者は改めて感じている。(春原彩花)