トップガストロノミー「ロオジエ」のエグゼクティブシェフが取り組む環境再生型農法とは
具体的な取り組みについてお聞かせください
ロオジエで使用する特別な卵づくりに協力してくれる養鶏農家を探しました。40軒もの養鶏農家に相談した中から、マイクロバイオーム農法での養鶏に佐賀県の若い養鶏家が手を挙げてくれました。彼の養鶏場で使用していた餌は、化学物質も抗生物質も含まれない自然のものだったので、私たちからは「マイクロバイオーム=自然の微生物」を提供し、その餌に混ぜて特別な卵を作りました。
4カ月間ロオジエのために70羽の鶏を実験的に育ててもらいましたが、その4カ月間に病死した鶏は1羽もなく、産まれた卵も白身が締まった、本当に自然で健康な素晴らしい卵でした。鶏も元気で、彼の養鶏場では過去平均1日1羽病死していましたが、マイクロバイオーム農法を取り入れて、4カ月間1羽も病気になりませんでした。
他にも手を挙げてくれた人たちがいます。長崎県では同県の在来種・固有種の人参を使用し、ジュース用のニンジンを作りました。生産者によると、ニンジンは冬の寒さにより強くなったそうです。3年の実験を経てできた特別な人参ジュースは、味わったことのない唯一無二の味です。佐賀県ではとても香り豊かなサフランを作っている生産者にも出会いました。2023年に彼は農作地の一部にマイクロバイオームを使い、11月に収穫してみると球根がいつもよりわずかに大きく、通常1本のサフランの花に3本の雌しべがあるところ、今年は4~5本に増えていて、それは見たことも経験したこともない現象だそうです。
マイクロバイオーム農法に感じている可能性をお聞かせください
このマイクロバイオームの研究者と仕事をしたいと思ったのは「自然の微生物」を発見し、増殖させているからです。この特別な微生物は畜産動物だけでなく、人間の健康にも良い影響を与え、また「自然の微生物」を使うという手法は、地球をいたわることにもつながります。抗生物質や害虫駆除剤・殺虫剤など、あらゆる化学物質を使わずに済むのです。
私はシェフとして「良いものを作る生産者・農家」を選ぶのではなく、良い食材を使いながら生産者や畜産業者が、より革新的なものを作る手助けをしていきたいのです。唯一無二の健全で、生産環境にとってもお客様にとってもおいしく、本当に自然なものを目指しています。生産者の中には化学肥料や殺虫剤の使用をやめるために農法を変えたいと望んでいながらも生産性の低下、つまり利益の減少を恐れて踏み出せないでいる人もいます。 私のモチベーションは、マイクロバイオーム農法で、本来の自然な農業を望む人たちの力になることです。おいしくできているのに、見た目の悪さで収益性や収穫量が減るのが不安だと言うなら、そういった作物を加工して別の付加価値をつけることが私にはできます。無駄に廃棄してしまうくらいなら、ゼリーやアイスクリームやシャーベットにする。別の商品に生まれ変わらせることができます。 もうひとつ重要な点として、日本の「消費者の意識」を変える必要もあると考えています。来日した時、その素晴らしさに驚き、今も素晴らしいと思っているのですが、果物にしても野菜にしても同じサイズ・形・量などすべて規格ごとに揃えられているのは見た目で判断し過ぎているからです。形が悪かったり傷がついていたりする果物や野菜を日本のお店や市場で目にするのはごくまれです。どの果物も完璧だと感心しますが、消費者のこういった意識を変えなくてはなりません。