【漫画家に聞く】実は可愛いものが好きだったヤンキーが女装ミスコンに出た結果……創作漫画『らぶりーヤンキー迅くん』が尊い
多様性が叫ばれるなかでも、「らしさ」という固定観念の壁はまだまだ存在する。10月上旬にXに投稿されたオリジナル漫画『らぶりーヤンキー迅くん』はそんな“らしさ”に縛られることなく自分の“好き”を大切にすることの美しさを感じられる学園ドラマだ。 実は可愛いものが好きだったヤンキーが女装ミスコンに出た結果……漫画『らぶりーヤンキー迅くん』 ヤンキー高校生の迅は見た目に反して可愛いものが大好き。しかし、“男らしい好み”ではないため、そのことを隠しながら生活している。悶々とした日々を送る迅だったが、隣の席のクラスメイト・さとりのカバンにあるものを発見。それは迅が大好きな魔法少女アニメ『まじかるこまち』のキーホルダーで、さとりを人目のつかない場所に呼び出す――。 本作を手掛けたのは、漫画家アシスタントとして日々研鑽を続けている花まるせさん(@mrs2ji)。自分の好きを今まで以上に大切にしたくさせる本作の誕生秘話など話を聞いた。(望月悠木) ■大好きが詰め込まれたキャラ ――今回『らぶりーヤンキー迅くん』を制作した理由を教えてください。 花まるせ: 「コミティアでオリジナルの同人誌を出したい」と考えたことが最初です。制作を開始したタイミングで周囲の人から私の好きなものを否定される出来事が起こりました。「私は創作に向いていないのかも」と落ち込む中、友達が励ましてくれて「他人にごちゃごちゃ言われようが好きなもんは好きなんじゃい!」という気持ちになりました。また、ポールダンスに取り組む女の子達を描いた映画『ポールプリンセス!!』の中で心身ともに崩れて立ち上がれなかった経験を持つ少女が仲間と一緒に再起する姿を見て、「私も頑張ろう」と思って制作を続けました。 ――「可愛いものが好きなヤンキーと変わり者の女子生徒」の2人をメインにした経緯は? 花まるせ:ある日、友人と通話で何気なく「どんなキャラが好き?」みたいな話をした時、私が「ポンコツヤンキーって可愛くない?!」と言ったら、友人が「うん!それ可愛いね!」と相槌してくれたことがキッカケです。また、メカクレ(髪などで目元が隠れているキャラ)かつショートカットで明るい素直な女の子も大好きで、そういったタイプの女の子も登場させたかったのですが、「メカクレで明るい性格が許される設定ってなんだろう?」と考えた結果、“変人”にすることを決めました。 ――迅とさとりのビジュアルはどのように描きましたか? 花まるせ:迅の顔は基本的に怖さを意識しました。ただ、可愛い格好を諦めきれない雰囲気も残したかったため、髪の毛のサイドをちょっと長くしています。ちなみに、当初はポンコツヤンキーになる予定だったのですが、気づいたら好きなものにすぐ反応する少々ナイーブなヤンキーになりました。一方、さとりは片メカクレ、ショートカット、明るいという私の大好きを詰め込んだ女の子です。 ――ちなみに本作に登場する魔法少女アニメ『まじかるこまち』の服装でこだわった部分は? 花まるせ:迅が可愛い服を好きになったキッカケのアニメですので、「リボンやフリルをいっぱいつけよう!」ということは最初に決めました。それプラスして女児向けの魔法少女アニメらしさを感じてもらえるように描いています。 ■女装コンは友人のアイデア ――“一緒にミスコン・女装コンに出場する”というストーリー展開はどのように決めたのですか? 花まるせ:1人でストーリーを考えると躓くことが多々あるので、よく友人に相談します。「文化祭に女装したヤンキーが登場すれば盛り上がらないかな?」と相談したところ、友人から「ミスコンとか良いんじゃない?」とアドバイスをもらい、私の中で「ミスコンなら描きたかったことを繋げられる」と思って採用しました。友人には本当に頭が上がらないです。 ――テンポ感の良いストーリーでしたが、読みやすさのために意識したことは? 花まるせ:1ページのコマ数が多くなりすぎない、セリフ量が多くなりすぎないようには気をつけていました。迅のオタク語りの部分は饒舌になる表現のため、わざとセリフを多くしていますが、できるだけ読んでいてくどくならないように心がけてます。また、セリフを打ち込んでみて、パッと見た時に「ちょっと長いな」と自分で感じた場合は言い換えやカットをして調整しました。 ――テンポの良さがありながらも、女装コンの舞台上のシーンはじっくりと丁寧に描いている印象でした。 花まるせ:大きいコマにしたり表情にフォーカスしたりなど、迅の気持ちが伝わるように意識して描きました。また、「迅視点のさとりの表情も伝われば」と考え、ふわっとしたトーンの張り方をしたりなどいろいろこだわっています。また、序盤から中盤までは基本的に「真っ直ぐなコマ割り」「人物がコマからはみ出さない」といったことをしているのですが、文化祭は人物の気持ちが溢れ出てるシーンですので、コマからバンバン人物がはみ出たり斜めコマを使用したりなどになっているため、これまでとは違った印象を与えたのかもしれません。 ――好きなことを「好き」と口にすることの難しさ、その気持ちを大切にすることの美しさなどが伝わる内容でした。あらためて本作に込めたメッセージを教えてください。 花まるせ:作中でさとりが言っている「"大好き"って気持ちは誰にも奪わせない」です。誰に何を言われようと、否定されようと、たとえ無意識で傷つけられようと、自分の中の好きな気持ちは自分自身のものです。しまい込まずに大切にしていってほしいなと。 ――最後に今後はどのように漫画制作に取り組んでいきますか? 花まるせ:来年の2月の『コミティア』に参加予定で、さとり視点や2人の進展などを描き足した本を出そうと考えています。興味ありましたらぜひよろしくお願いします!また、現在読み切り作品を雑誌に掲載してもらえるように頑張っています。商業でも少しずつ活動できるように取り組んでいますので、もしどこかで私の作品を見かけた際には読んでもらえると嬉しいです。
望月悠木