70年目の広島・長崎 「核のない世界」へ日本ができること
意外に理解されない「核の非人道性」
非核保有国は、米ロ両国の核削減交渉に参加できませんが、核不拡散条約(NPT)の場などで核兵器の廃絶を主張してきました。 日本は唯一の被爆国であり、核兵器の恐ろしさ、非人道性をどの国よりもよく知っており、それを国際社会に訴え、核軍縮を進める必要性を強調しています。具体的には、NPTの場で、包括的な核軍縮を訴える決議案を提出し、多数の賛同国を得ています。これは核軍縮について具体的な結論を出すものではなく、国際世論の形成ですが、核の一層の削減を迫る圧力となります。 日本はまた、核軍縮を実現するには若い世代の人たちが核の恐ろしさを理解することが必要であるとの考えから、国連での軍縮教育に力を入れ、その一環として広島・長崎への訪問を組み込んでいます。さらに、核実験の禁止についても、地震に関する知識を応用して核実験を探知する施設の建設や技術の向上などに貢献を行なっています。 今後日本は、これまで進めてきたこれらの方策をさらに強化しつつ、各国と協力して「核兵器の非人道性」の確立に努めていくべきです。核の廃絶が進まない理由の一つは核の抑止力だと前述しましたが、核の非人道性に対する理解が弱いことがもう一つの理由だからです。 世界の人々、指導者は必ずしも「核の非人道性」を理解していません。核兵器も通常兵器も人を殺傷するので質的な違いはない、違うと言っても程度問題だ、と思っている人がいるのが現実です。しかし、核は、ひとたび使用されれば、膨大な数の市民を殺傷します。また、被爆した人たちに長期間、多くの場合一生、耐え難い苦痛を与え続けます。これは深刻な人道問題です。私は軍縮大使時代、そのようなことを理解していない欧州某国の大使と大論争をしたことがあります。
今年春に開催されたNPTの重要会議(再検討会議)で日本政府は世界の指導者が広島・長崎を訪問することを提案しました。これは決定にはなりませんでしたが、「核の非人道性」について理解を深めてもらうために良い提案だったと思います。 来年のG7の関係で、日本政府は外相会合を広島で開催することに決定したと報道されています。首脳会合は伊勢志摩で行なわれますが、その前後にエキストラで、たとえば自由参加として被爆地訪問を提案することもできるのではないでしょうか。オバマ大統領はかねてから諸条件が整えば、広島を訪問したいとの希望を表明しています。何らかの形でこれが実現することは画期的な意義があります。 (美根慶樹/平和外交研究所)
■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹