『おっさんずラブ』“春田”田中圭の瞳に宿る愛おしさ 牧を見つめる眼差しがたまらない
「伝説の愛が帰還する」 『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)で田中圭が演じる春田創一の恋する瞳を見ていると、制作発表時に掲げられた大げさなうたい文句にも納得させられてしまう。彼の瞳からは相手を愛する気持ちが、これでもかというほどにあふれ出しているからだ。 【写真】弓道を教えるために体を密着させる春田と和泉の姿 ジェットコースターのような展開の早さと、役者陣の振り切った演技でコメディとしても高い評価を受けた『おっさんずラブ』シリーズ(テレビ朝日系)。そんな本作が切ないラブストーリーとしても愛されている理由は、俳優陣の丁寧な恋愛感情の表現によるものだ。特に2018年放送の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)では、田中が演じる春田の牧凌太(林遣都)に無自覚に惹かれていることが分かる眼差しが、春田と牧が両思いになっていくまでの過程に説得力を与えていた。 田中の芝居は、2019年に公開された『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』でも同様の魅力を発揮した。劇場版の最後で、春田は海外赴任して夢を叶えようとする牧を見送るが、牧を見つめるその笑顔は引きつっていてどこか寂しさがにじむ。愛するパートナーの夢を応援したい、でも離れたくない。そんな相反する感情が見える春田の表情を見ていると、本作がテーマに据える「人を愛する感情の尊さ」に改めて気付かされるのだ。 そしてドラマ版から5年ぶりの新作『おっさんずラブ-リターンズ-』でも、春田の瞳からは、牧が愛おしくてたまらないという感情がヒシヒシと伝わってきた。春田と牧が再会した第1話で、2人の間では再会を喜ぶ直接的な言葉は交わされない。春田はただ真っ直ぐに牧を見つめ、ゆっくり噛み締めるように「牧、おかえり」と告げるだけ。それでも、少しまぶしそうに細められた春田の瞳からは牧への深い愛情がこれ以上ないほどに伝わってくる。 第2話では、春田の母・幸枝(栗田よう子)に牧と共に生きていく人生を祝福されたあとに、春田は安堵がまじった優しい笑みで牧を見つめる。その笑みから、春田と牧の関係性を理解してもらえたことへの言いようもない喜びが溢れていた。言葉にせず噛み締めていることがわかるからこそ、春田の感情が観ているものの心まで染み渡ってくる。田中が見せる表情の一つ一つが、“相手を想う気持ち”に奥深さを与えているのだ。 田中といえば、恋愛ドラマにおける所作に定評がある。2023年に放送された『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系)の常葉朝陽役では谷岡初音(門脇麦)の今後の関係性を予感させる握手からの自然な手繋ぎ、『unknown』(テレビ朝日系)の朝田虎松役では闇原こころ(高畑充希)との桜の下で交わされたじゃれ合うようなキスも記憶に新しい。役の人柄や相手との関係性が見える自然な所作で、作品の代名詞として語られるほどの名シーンを数多く演じてきた。 それらに比べて『おっさんずラブ-リターンズ-』での春田役は、甘いセリフを語ったり、スマートな所作で愛を伝えるようなキャラクターではない。長い手足をいっぱいに広げて牧に抱きつく姿は、さながら大型犬が尻尾を振っているかのようで、いわゆるカッコいい男性とは程遠い。そんな天真爛漫なかわいさを持つ春田がふとした瞬間に愛おしくて仕方ないという瞳で牧を見つめる。セリフや行動での表現も得意とする田中が、感情の機微を瞳で表現しているからこそ春田から牧へと向けられる深い愛情が見えるのだ。 『おっさんずラブ』シリーズの登場人物たちを観ていると、本気で人を愛することの愛おしさを痛感する。田中が演じる春田の眼差しは、その“愛おしさ”そのものと言っても過言ではないだろう。
古澤椋子