【アイスホッケー】橋本 僚(レッドイーグルス北海道)ロングインタビュー(前編) 「今は、僕のパフォーマンスに矢印が向いている。自分のことに100パーセント集中できていると思います」
アニャンのリンクは「狭さ」が脅威に。簡単にパックを前でさばくことが大切
――2年間のキャプテン生活のクライマックスは、2023年3月、HLアニャンとのプレーオフ・ファイナルだったと思います。結果は2勝3敗、レッドイーグルスは優勝を逃しましたが、もし第5戦に勝っていたら、プレーオフの最優秀選手賞は文句なしで橋本選手に決まっていたでしょう。 橋本 勝ってないので、なんとも言えないですけどね(笑)。まあ、勝ちたかったですけど。 ――あのときは、第1戦を前にGK成澤優太選手が欠場というピンチに追い込まれました(第3戦から戦列に復帰)。 橋本 やっぱり「第1戦」ってものすごく大事なんですよ。1つ勝つと、心の余裕も生まれるし、普段やっているプレーも安心してできてくるんです。逆に第1戦を落とすと、2戦目以降にプレッシャーを感じ始めて…。 ――第1戦では1点目、2点目を橋本選手が押し込み、4-1で勝ちました。終了のブザーの瞬間、GKの小野田拓人選手に橋本選手が真っ先に駆け寄ったのを覚えています。第2戦、そして敵地に移っての第3戦は、アニャンの連勝。もう1敗もできなくなった第4戦は、開始2分にPPがあって、直後に橋本選手のゴールで先制しました。唯一の得点を残り57分間、チームは全員で守り切りました。 橋本 そうですね。最近になって思うのは、ゼロで抑える難しさもあるんですけど、「1点勝っている」というのは、心のどこかに余裕をもって戦うことができるんです。 ――第5戦、レッドイーグルスはPPを得ながら、逆にPKのアニャンに先制点を奪われました。ところが2ピリ終了間際、橋本選手がシュートを左端に決め、1-1の同点に追いつきます。 橋本 チームのみんなには、いろいろな思いがあったと思うんです。第5戦、「勝って終わりたい」のは、もちろんあったんでしょうけど、「第5戦まで来たんだから、もう終わってもいい」という雰囲気も、多少はあったのかなと思います。第5戦、すなわち最後の試合が終われば、シーズンそのものが終わるわけじゃないですか。「だったらもう、思い切ってやろうよ」という意味です。持っている力をここで出し切ろうぜ、と。 ――そのまま第3ピリオドも双方無得点、試合は1-1のまま延長に入りました。レギュラーリーグと違い、5人対5人で延長戦を戦って、どちらかが決勝点を挙げるまで戦わなくてはいけないわけですが、「第4ピリオド」20分も決着がつかず、勝負は「第5ピリオド」に持ち越しになりました。ただ、経過する時間が増えれば増えるほど、若さで優るアニャンのほうが優位なのは明らかだったように思います。レッドイーグルスとしたら、たとえ9割がたアニャンに押されていようとも「1点」入れてしまえばいいわけですが、でも、そのチャンスもあったと思います(結果はセカンドオーバータイム10分、2-1でアニャン勝利)。 橋本 早めに点を入れていれば、勝つチャンスは実際にあったと思いますね。ポストに当たったり、惜しい場面もありましたから。ただ、第4戦からウチはDFを5人で回していて、そういう意味での蓄積があったんです。みんなの体力ゲージを見ていても、本当にギリギリの部分ではありました。 ――アニャンとの試合のときは、システムは2-3を用いている気もしたのですが。 橋本 場面、場面によってチェッキングが違いますが、体力マネジメントしたい時に1-1-3にしたことはありました。60分の中で「あえてがむしゃらにいかずに」戦う時間帯が必要な時もあるんですよ。2-1-2、あるいは2-3に見えたりもするんですけど、基本は1-2-2のアグレッシブです。 ――なかでもF3、すなわちセンターの仕事は、アニャン戦は特に大変だと思います。 橋本 ですよね。やっぱり運動量がかなり必要なポジションでありますから。同時に、アニャンの場合はリンクが狭いんです。日本国内でやる時と、選手の距離間も変わってくるんですよ。いつもだったらプレッシャーがないような場面でも、アニャンのリンクは狭いから、相手の影が見えてくる。そこで判断を誤る選手も出てきます。そういう時は簡単に投げて、前に、前にというカタチでいいと思うんですが。 ――「去年のプレーオフの段階で」という前置きになりますが、アニャンとの差がもしあったとしたら、どこだったと思いますか。 橋本 そうですね…やっぱり「偏り」がないんですよ、アニャンの選手は。1つ目、2つ目、3つ目、4つ目まで役目が与えられていて、パワープレー、キルプレーも、出ている選手が「60分」という試合時間を作り上げていく…そんな感じなんです。昨年(度)の話なんですけど、ウチはどうしても「個」に頼る部分がある。しかも第3戦以降は、4日間で3試合と連戦が続いていきます。そうなると、どうしたって疲れがたまってくるんですね。緊張感が続く局面で、それが「差」となって表れたんだと思います。(後編に続く) 1992年10月23日生まれ。北海道岩内町出身。泊ブルーマリーンシャークスから札幌フェニックス、北海高校を経て2011年、王子イーグルスに入団。チームがクラブチーム「レッドイーグルス北海道」となった2021年から2シーズン、キャプテンに就任、2021-2022年にジャパンカップの連覇を果たす。2022-2023シーズン、3年ぶりに行われたアジアリーグでは、2大会連続のベスト6(ジャパンカップと合わせると4年連続ベスト6)に輝くなど、DFとして堅守を見せる一方、前線への効果的なパス、時にはジャンプを見せるなどチームの攻撃力アップに貢献している。2023-2024シーズン、アジアリーグのアシストランキングで、1月22日現在、「28」で首位をキープ。現在は「岩内町観光大使」および「泊村スポーツ大使」を務める。178センチ・75キロ。背番号は北海高校時代から「34」。
山口真一