「ハリー・ポッター」「ファンタビ」シリーズの小道具制作を手掛けたピエール・ボハナにインタビュー!ダンブルドア校長室の裏側も紹介
「ハリー・ポッター」シリーズや映画「ファンタスティック・ビースト」シリーズを始め、昨年公開の『ザ・フラッシュ』や『MEG ザ・モンスター2』、『バービー』など、数々のハリウッド超大作の造形美術を担う、小道具制作ヘッドのピエール・ボハナが来日。「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 - メイキング・オブ・ハリー・ポッター」にて、映画「ハリー・ポッター」の造形美術の裏側や、「スタジオツアー東京」における展示のこだわりについて、小道具制作のヘッドならではの視点で語ってくれた。 【写真を見る】「ハリー・ポッター」「ファンタビ」シリーズの小道具制作ヘッド、ピエール・ボハナにインタビュー!これまで最も苦労した「ハリポタ」シリーズの小道具とは? ■「レストレンジ家の金庫にある宝石類は、25万点以上も作った」 2012年に英国ロンドン郊外に、世界初の「ワーナー ブラザース スタジオツアーロンドン」がオープンしてから12年。「映画関連の美術館や博物館は世界各地にあるとは思いますが、『ハリー・ポッター』の世界観を余すところなく表現したうえで、それを来場者の皆さんに伝えるだけでなく、映画づくりの裏側を見る楽しみをも提供するという、その両方を兼ね備えているところが、『スタジオツアー』の大きな特徴なんです」と語るボハナ。「そういった『スタジオツアー』ならではの特徴に魅了されている人々が、世界中にいかに沢山いるか――。それは『スタジオツアーロンドン』での成功によって、すでに十分に証明されていると言えますよね」と、ゆるぎない自信を覗かせる。 そのうえで、昨年新たに日本に誕生した、アジア初となる「ワーナーブラザース スタジオツアー東京」については「J.K.ローリングのストーリーが生み出した『ハリー・ポッター』の映画の世界を祝福するような位置づけにあたる」とし、「スタジオツアーロンドン」における経験を踏まえて様々な改良も加えられていることから、「ストーリーテリングの面でも、展示内容の面でも、ロンドンのものより一層洗練されたものになっているはず。実際に、映画のセットの中に入り込むことで没入感を味わいながら、そこからさらに一歩引いて、それらがいったいどうやって作られているのか。その裏側も知ることができる施設になっているのではないでしょうか」と分析する。 映画「ハリー・ポッター」シリーズにおいては、「魔法の世界」を作り上げていくそのプロセス自体が「制作陣にとっても非常に大きな挑戦であった」と振り返る一方、同じ世界観を共有しながらも、“時代モノ”でもある「ファンタビ」では「土台となるその世界観を、さらに拡大していく作業が求められた」と語るボハナ。これまで何千~何万と手がけてきた小道具のなかでも特に具現化するうえで苦労したのが、レストレンジ家の金庫の中にある金、銀、銅などの宝石類。「ゴム素材で25万点以上も作った」というから気が遠くなる。 さらに、小道具や造形美術の魅力について、「最初から脚本に細部までしっかりと書き込まれている場合と、十分には書かれていない場合と、作品ごとに大きく異なるのですが、白紙の状態からひとつの映画が出来上がるまでの間に、そこに登場する小道具がいったいどういうものであるのかを発見していく。そのプロセスの旅自体に大いなる喜びがあるんです」と語るボハナ。まったく異なる作品ごとのインスピレーションをどのように得ているのかと尋ねると、「脚本のみならず、監督はもちろんのこと、映画に関わるありとあらゆる部門のスタッフの仕事からインスパイアされています。撮影の準備を進めるなかで、情報や知識をどんどん増やしながら世界観を生み出していくんです」とその舞台裏を明かした。 小道具は、ファンタジーやSFの映像作品の魅力を語るうえでもっとも大きな要素の一つだが、ボハナは「自分たちの仕事がその映画に貢献できているとしたら、それ自体がとても名誉なこと」だといい、「ビジュアルでストーリーを語る必要性のある映画において、各部門のクリエイティブディレクターがいかに自分たちの仕事に自信と誇りを持っていようとも、最終的なジャッジを下せる立場にあるのは、現場の最高責任者であり、ストーリーテラーでもある監督しかいない。作品の世界観を理解したうえで、監督を筆頭に、クリエイティブに関わるすべてのスタッフが一丸となって作り上げていくことがなにより大切」であると強調する。 ■「ぜひとも穴が開くほど見て楽しんで!」 「作品に貢献できる“すばらしい小道具”を作ること。それこそが、造形美術を担当する僕らの果たすべき役割。いくら汗水垂らして一生懸命作ったとしても、映画作りの工程においては、変更はつきものなんです。当初はフィーチャーされるべきはずものだったものが、途中で丸々カットされてしまうなんてことも日常茶飯事。苦労して作ったのに、いざ蓋を開けたらほとんど映画に映っていなかったとしても、それはもう仕方がない。もちろん『ここは絶対に映さないよ』と監督から最初に聞かされていたとしたら、僕らだってカメラに映らない部分までわざわざ作り込んだりはしないですよ(笑)。でも、大抵は現場に入るまでなにをどのアングルから撮ることになるかわからないから、決して気を抜くわけにはいかないんです。 監督や俳優はもちろんのこと、ほかの部門のスタッフたちも含めて、その空間に足を踏み入れる人になにかしらのインスピレーションを与えられるような小道具にしたいと常に考えています。彼らが実際に見て、触れて、『なるほど! 脚本のこのシーンに出てくるセットや小道具はこういうものだったのか!』と実感する。そして、彼ら自身のなかにもともとあったイメージが、それによってさらに膨らんでいくような。そんなものになったらいいなと思っているんです。そのためにも、スタッフやキャストとのコミュニケーションやディスカッションを常に大事するようにしています」と、映画作りにおける自らの役割を語った。 ちなみに、「スタジオツアーロンドン」がオープンした当初は、小道具のみならず、「すべて映画で使ったオリジナルのアイテムを展示すること」をコンセプトに掲げていたという。だが「映画の撮影期間中だけ十分なクオリティを保てればいい」という前提で作られた小道具の数々を、日々多くの人々が行き交うスタジオ内に、長期間に渡ってそのまま展示し続けることは、物理的に不可能であることがわかった。そのため、「より耐久性のある、より洗練されたデザインの小道具」に改良する必要があった。 「展示にあたっては、少しでも長持ちするような工夫や努力をしなければなりません。空気中のほこりの多くは、実は人間の皮膚からくるもの。見た目やデザインももちろん重要ですが、まずは、それらが影響を及ぼさないような素材選びをすることを心がけています。スタジオ内には毎日清掃を行うクルーもいますが、来場者が直接触れるものに関しては、数か月に一度は定期的に大がかりなメンテナンスをする必要があるんです」と、常にベストな状態で展示するうえでの苦労も明かしつつ、「映画作りにおいて、普段スタッフがどんな作業をしているのかを来場者の皆さんに理解してもらうことこそが、僕らの一番の望みなんです。『じっくり見られたら困る』『出来れば見ないで』なんてものは、ここにはなにひとつありません(笑)。ぜひとも穴が開くほど見て楽しんで!」と、茶目っ気たっぷりにアピールする。 原作の「ハリー・ポッター」シリーズには、「マホウトコロ」という日本を舞台とした魔術学校も登場する。過去にも別作品でのプロモーションで来日経験があり、「日本が大好きだ」というボハナに、もし映画化されるとしたら、どんな小道具が新たに生まれそうかと訊ねると、「それが実現したらどんなすばらしいか」と期待を込めながら、「日本には長い歴史があって、神話を始めとするオリジナルのストーリーも豊富ですよね。それに加えて、日本の職人たちにはたしかな職人技の数々が根付いています。魔法の世界には欠かすことのできない道具である箒や杖ひとつとっても、非常に繊細でクオリティの高い日本らしいものにできるのではないかと思います。いつか『マホウトコロ』の現場に呼ばれたら、すぐにでも“日本版ホグワーツ”の制作に取り掛かりたいですね」と意気込んだ。 取材・文/渡邊玲子