勝手に引いた線で、命が区切られていいのか 国際政治学生が感じた難民政策への怒りと悲しみ「人間の境界」
この作品を見て、「なんてひどいんだ」「助けてあげたい」と感じる人は多いと思う。私もその一人だ。しかしいま、ネットに難民に寄り添った意見を書き込めば、ほぼ間違いなく誹謗(ひぼう)中傷にさらされる。もっと難民を受け入れるべきだなどと言おうものなら、「売国者」「自分で受け入れろよ」などと返ってくる。大学の授業で難民についてディスカッションするときは互いに意見を尊重し、賛成でも反対でも自由に議論ができる。なのに大学を出た途端、その議論はしにくくなる。なぜ移民や難民について冷静な議論ができず、極論に走ってしまうのかと思う。 【動画】〝人間兵器〟にされた人々の過酷な運命「人間の境界」予告編
ポーランド・ベラルーシ国境で起きた悲劇
「人間の境界」の第1章は、シリア人家族がベラルーシに到着するところから始まる。シリアを逃れてきた彼らは、国境を越えてポーランドに入れば、ヨーロッパで自由な生活が送れると信じている。しかし無事にポーランドに入ったところでポーランドの国境警備隊に見つかり、ベラルーシ側に戻されてしまう。すると今度は、ベラルーシの兵士が彼らをポーランドへと追い返し、ポーランドに入るとまた国境警備隊にベラルーシに戻されてしまう。 映画は、2021年にポーランドとベラルーシの国境で起きた出来事を基にしている。アフガニスタン、シリア、イラク、イエメン、コンゴ民主共和国といった国々から、安全な地を求める人たちが、ベラルーシを経由してポーランドに渡ろうとした。ロシアのプーチン大統領の意をくんだベラルーシのルカシェンコ大統領は、政治的な混乱を誘発することを狙って意図的にポーランドに難民を送り込んだ。ポーランド側は非人道的な対応で難民をベラルーシ側に押し返した。映画は、シリア人難民家族のほか、彼らを追い返すポーランドの国境警備隊、ポーランド側の難民支援団体の活動家など、さまざまな視点から、この出来事を描いている。
難民は「武器」なのか
私が作品を見て感じたのは、難民が都合よく利用されているということだ。映画の中でポーランドの国境警備隊の上官は、隊員たちに「連中(難民たち)はプーチンとルカシェンコの武器。人間ではなく生ける銃弾だ」と説明し、取り締まりの厳格化を命じる。何度も国境を往復するうちに、難民たちは衰弱し疲れ果ててしまう。途中で死んでしまう難民も描かれる。 難民を「武器」よばわりとは! なぜこんな残酷なことができるのか、理解に苦しむ。自分がもし難民の立場であったらと考えると、まさに「絶望」の2文字だ。国境は、人が決めた線に過ぎない。その線によって人が死ぬ。ただの線が、凶器でもあるかのようだ。人間が勝手に決めた境界が、生死の境界となっていいのか。