『フォールガイ』はスタントアクション映画の決定版 現在の映画界の状況も反映した一作に
映画撮影において、出演俳優の代わりに命を張って危険なアクション部分を演じる役割といえば、アクション映画にとって、なくてはならない「スタントパフォーマー」だ。これまで、ターセム・シン監督の『落下の王国』(2006年)や、『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)などの作中では、そんなスタントパフォーマーの映画界での貢献が讃えられてきた。 【写真】『フォールガイ』場面カット(多数あり) 公開中のライアン・ゴズリング主演作『フォールガイ』は、1980年代にTV放送された、スタントを演じながら賞金稼ぎを生業とする主人公の活躍を描いた『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』を基にした映画だ。 『フォールガイ』は、何よりもスタントパフォーマーの存在価値が、スタントアクション満載のアクション映画大作としてストレートに表現され、ある意味、この種の作品の「決定版」といえる内容となったといえる。ここでは、そんな本作『フォール・ガイ』の存在意義や、現在の映画界の状況を反映している部分を深堀りして考えていきたい。 ライアン・ゴズリング演じる主人公は、ドラマ版の役名でもあるコルト・シーバース。かつてスタントパフォーマーとして撮影現場で活躍していたコルトは、アクションスターのトム(アーロン・テイラー=ジョンソン)の身代わり(フォール・ガイ)として落下スタントを演じたが、予期せぬ失敗により心身ともにダメージを負って、いまではレストランの駐車係として働いているという設定だ。 ある日、映画プロデューサーのメイヤー(ハンナ・ワディンガム)の依頼によって、再びコルトはトムのスタントパフォーマーとして新作映画に復帰することになる。コルトの復帰の理由となったのは、そのSFアクション映画『メタルストーム』で初監督を務めるのが、元恋人のジョディ(エミリー・ブラント)であったからだ。恋の再燃の予感が漂いながらも、コルトにはもう一つの仕事が課せられていた。それは、撮影期間中に行方をくらましてしまったトムを秘密裏に捜索すること。コルトは、業界の裏の世界でさまざまな危機に遭い、陰謀に巻き込まれていくことになる。 さすが、ライアン・ゴズリングやエミリー・ブラント、アーロン・テイラー=ジョンソンのような、スター俳優かつ演技巧者を集めているだけあって、コメディ色の強いアクション映画という内容ながら、陳腐な印象は感じさせることはない。失意のなかにあったコルトの心境が変化していくところや、コルトに対して素直な態度が取れないものの愛情を隠しきれないジョディの心情が、ギャグやアクションシーンの連続のなかでも伝わってくる。 一方で本作が、スタントパフォーマーについての映画として、一つの「決定版」だといえる理由は、実際のスタントパフォーマーが、数々の激しいアクションシーンを演じているところにある。スタントデザイナーを務めるクリス・オハラのもと、ベン・ジェンキン、ジャスティン・イートン、ローガン・ホラデイ、トロイ・ブラウンなどの優秀なスタントパフォーマーたちが、強力な「スタントチーム」として、カーアクションや格闘アクション、高所からの落下や炎に包まれる場面で活躍しているのだ。そして、デヴィッド・リーチ監督自身も、スタントマンとしてのキャリアがある映画人である。だからこそ本作のスタントは、危険性や難度を熟知した、レベルの高いものとなっている。 コルトが撮影現場で演じる、走行中の乗用車を地面にクラッシュさせながら回転する「キャノンロール」のシーンでは、ドライビング技術に長けたローガン・ホラデイが、これまでカースタントにおけるキャノンロールの記録とされていた、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)での7回転を更新し、8回転半という新記録を達成している。ハイスピードで回転しながら衝撃を受け続ける、このカースタントは、危険極まりないものだ。また、ホラデイはさらに、車での70メートルの大ジャンプも本作で成功させている。