EU離脱延期を英議会で採決へ? 再度の国民投票で「逆転残留」はあるか
欧州連合(EU)側と何らかの落とし所を見い出し、イギリス国内外のさまざまな分野におけるダメージを最小限に留めようと尽力してきたイギリスのメイ首相だが、3月29日までに「合意なき離脱」を回避できるか否かがやはり焦点となる。EUとの合意がないまま離脱する「合意なき離脱」は、イギリス社会に経済的打撃を与えるだけではなく、物流の停滞をも引き起こし、結果的に商店から一時的にモノが消える可能性もある。イギリス政府は略奪を含む騒乱への対応をすでに検討していると報じられており、社会機能がマヒする最悪の事態は是が非でも回避したい。メイ首相は先月26日、英議会下院で今月12日までに「合意なき離脱」の支持を問う採決を行い、否決された場合にはEU離脱の期限延長を採決にかけることを表明した。土壇場になって現れた新たな動き。EU離脱の是非をあらためて問う、2度目の国民投票実施を求める声も浮上している。
12日に「離脱修正案」13日に「合意なき離脱」採決か
イギリスがEUから離脱する期限として設けられた今月29日まで、残すところ約3週間を切ったが、このタイミングで「合意なき離脱」に対する風当たりは強さを増している。レッドソム下院院内総務は7日、メイ首相が提案したEUからの離脱に関する修正案の採決を12日に行うと発表したが、修正案が可決される見込みは薄いとみられている。メイ首相は1月に大差で否決された協定案に修正を加えたが、再び否決という回答を突きつけられる可能性が濃厚だ。複数の英メディアは先月末、「合意なき離脱」が強行された場合にはメイ内閣の閣僚が相次いで辞任することになる見通しを伝えており、政権崩壊が避けられない状況に直面する。 3月29日までの流れを整理しておくと、12日に修正離脱案が否決された場合、今度は「合意なき離脱」の是非を問う採決が13日までに行われる予定だ。この13日の採決が否決された場合、翌14日にEUからの離脱期限延長を問う採決が行われることになる。「合意なき離脱」が否決された場合に、残された期限で通商上のルールなどでEU側と妥協点を見出すことは不可能に近く、結果的に英議会に残されたオプションは離脱期限の延長のみとなる。 「合意なき離脱」が最終的に否決されるという見方が強まる一方で、可決された場合の社会的混乱を英政府は不安視している。ハンコック保健・福祉大臣は1月27日に出演した英BBCの報道番組の中で、「合意なき離脱」が引き金となってイギリス国内で発生する社会不安に対応するため、一時的に戒厳令を敷き、治安維持目的で英国内にイギリス軍部隊を展開させる可能性を否定しなかった。「合意なき離脱」によってイギリスの輸入や物流は大打撃を受けるとみられており、スーパーマーケットやドラッグストアに行っても、買える物がストックされていない状況も想像される。非常時には生活物資を積んだ英海軍の船がイギリス各地の港で一時的に生活品などの一時供給を行うかもしれない。 こういった懸念は、「合意なき離脱」が否決されれば、しばらくはイギリスにとって大きな問題となることはないだろう。しかし幾つもの採決を経て、イギリスのEUからの離脱期限が約3か月延長されたとしても、その間にイギリスとEUが妥協点を見出すのは至難の業だ。英本土のグレートブリテン島の隣にあるアイルランド島は、北部が英領「北アイルランド」で、南部は「アイルランド共和国」と、歴史的な問題もあって1つの島が分断される状態が続いてきた。