伝統産業の日本酒に「クラフトサケ」で新規参入も老舗が反発 “よそ者”が選んだ生存戦略
経営学部出身の若者が、縁もゆかりもなかった秋田県男鹿市で新しい「酒蔵」を立ち上げました。その名は「稲とアガベ醸造所」。副原料を加えた新しいお酒「クラフトサケ」を武器に、新規参入が困難な日本酒業界に挑んでいます。 日本酒という伝統産業でビジネスを行うことは、想像以上に困難で、多くのハードルがありました。スタートアップ酒蔵が直面した壁と、生き残りをかけた戦略について掘り下げます。
伝統の破壊者か、救世主か
取材にあたり、稲とアガベ代表の岡住修兵さんからひとつ「お願い」がありました。以前、あるメディアの取材を受けた際「日本酒業界のイノベーター」のように書かれたことがあったが、それはやめてほしい。自分は古い酒蔵と敵対したいのではなく、同じ仲間として日本酒業界に貢献したい――と言うのです。 日本酒業界の現状について簡単に解説します。 国税庁の「酒レポート」(令和4年3月)によりますと、日本酒(清酒)の出荷量は、1973年度の177万キロリットルをピークに年々減少。2020年度には41万キロリットルまで落ち込んでいます。一方で、日本国内で日本酒を製造・販売するために必要な清酒の製造免許は現在、新規交付が認められていません。 岡住 「業界の活性化には、新規プレーヤーが参入し、健全な競争原理を働かせることが不可欠です。しかし日本酒業界ではそれが許されておらず、このままではシュリンクを続けるだけです。根本からルールを変えなければ、日本酒の未来はありません。 また、業界には長時間労働・低賃金の労働環境の問題もあり、今も『100連勤で手取り十数万円』なんていうことがまかり通っています。その上、酒蔵は代々蔵元が経営を引き継ぐため、ただの従業員はどうやってもトップにいけない。若者が夢を持って挑戦しづらい業界になってしまっています」
【岡住修兵(おかずみ・しゅうへい)】 稲とアガベ株式会社代表 1988年、福岡県生まれ。神戸大学経営学部卒。 2014年から秋田市の新政酒造で酒造りを学ぶ。 2018年に退社し、起業準備。 2021年に秋田県男鹿市で「稲とアガベ醸造所」を立ち上げる