人間関係を支配する「3倍の法則」のすごさとは 脳のサイズが規定する集団の規模とその機能
リーダーは、集団の規模に応じて、どういうことを求めていく必要があるのか。これは本当に目から鱗でしょう。 なかでも、「ダンバー・グラフ」はすごいものです。 まず、結婚相手など、自分が最も信頼するパートナーが核になります。コミュニケーションの核であり、生きていくうえで全面的に頼る人という意味では、自分というものを確立してくれる人とも言えます。 そこから、人数が3倍で増えていくとともに、心理的な近さや管理の仕方が変化していくのです。
■人間関係は「3倍」ごとに変化する 最も信頼できる仲間であり、核にもなるのは、「5」という人数です。小回りが利き、それぞれがお互いのことをよく知っている。意見を言えば、すぐに取り上げられます。密接な関係を維持するために、毎日顔を合わさなければなりませんが、リーダーはいりません。 本書には、イギリス軍特殊部隊の例が出てきますが、やはり4~5人と、限りなく5人に近い単位で戦闘に臨みます。ミュージシャンのバンドもそうです。3人編成もありますが、やはりクリエイティブな仕事をする上では、5人くらいが重要だということです。
これに3を掛けると「15」です。ダンバー氏は、日常的な付き合いの60%までを占めているのは、15人という人数だと断言しています。 多様な人が集まって、さまざまな意見を述べることができ、熟議にふさわしい数です。ただし、対立や分裂が起きるので、まとめ役やリーダーが必要です。 さらに3を掛けると「45」。約50人です。きちんとした構造とリーダーシップが必要となる集団で、民主主義が成り立つ場所でもあります。
そして、150人という規模へ飛躍するときには、何らかのルールが必要になります。つまり、150人が民主主義の限界だということです。 民主主義は、信頼と信用が糧になります。約束を守ってくれるからこそ信頼できる。そういった関係性の中であれば、組織としてのクリエイティビティ、生産性、効率性を高めていくことができるのです。 サルや類人猿の脳から分析された「ダンバー数」が、現代の人間の組織論にぴったり合うというのは驚きですよね。
(つづく) (構成:泉美木蘭)
山極 壽一 :総合地球環境学研究所所長、霊長類学者