下請け法改正へ報告書案 「価格交渉の義務化」盛り込む 有識者会議
公正取引委員会と中小企業庁が設置した有識者会議「企業取引研究会」(座長・神田秀樹東京大名誉教授)は17日、下請け法改正に向けた報告書案をまとめた。「買いたたき」などの取り締まり強化に主眼を置き、発注側と下請け側との「価格交渉の義務化」が主な柱。物価高騰を踏まえ、企業間取引における適切な価格転嫁と中小企業の賃上げを促進する狙いがある。「上下関係を感じる」などとネガティブなイメージがあるとして「下請け」という用語の変更も盛り込んだ。 公取委などは今後、報告書の提出を受けて改正案の検討に入り、2025年の通常国会での成立を目指す。大規模改正が実現すれば03年以来、約20年ぶりとなる。 報告書案は、下請け側の中小企業に対し強い立場にある発注側の大手企業が取引価格を一方的に決めることを禁じ、価格交渉を義務付けるとした。価格設定が正当か不当かの確認が難しい取引も多く存在するため、交渉プロセス自体に規制の網をかけた形だ。 さらに、下請け法の適用基準を拡大する。現行は発注側と下請け側双方の資本金の規模に基づき、例えば製造委託の場合、「発注側が3億円超、下請け側が3億円以下」などと適用基準を規定。だが、発注側が下請け側に増資を強要する「摘発逃れ」も相次いで発覚しており、従業員数に基づく適用基準を新たに設ける。具体的には「発注側が300人超、下請け側が300人以下」などとした。 このほか、決済時に発注側が振込手数料分を代金から差し引くケースが横行していることから、手数料は発注側が負担するよう定める。また、荷主と運送業者との取引を規制対象に追加すること、発注側が保有する金型の無償保管を下請け側に強要する行為の規制を強化することなども報告書案に盛り込まれた。 企業取引研究会は7月に設置され、大学教授や経済団体幹部、企業経営者らが議論を重ねてきた。報告書案では「失われた30年」と呼ばれる日本経済の停滞について、取引価格と賃金が据え置かれてきた影響を指摘。デフレに陥り、企業や労働者の行動が萎縮する悪循環が生じたとして、下請け法改正による取引慣行の見直しの重要性を訴えている。 座長の神田氏はこの日の記者会見で「デフレ経済の要因はコストカットに尽きる。そうした現状を変える良いタイミング。下請け法違反企業は『他もやっていますから』といった思考停止に陥っている。国を挙げて商慣行を変えていかねばならない」と述べた。【渡辺暢】 ◇下請け法改正に向けた報告書案のポイント ・発注側と下請け側の価格交渉を義務化 ・「従業員数」に基づく適用基準を新設 ・決済時の振込手数料は発注側が負担 ・荷主と運送事業者との取引を規制対象に追加 ・「下請け」という用語の変更