日本建築の国際性 ボヘミアンが共鳴した周縁文化の精神
日本の近代建築家はモダニズムと和風の関係と向き合ってきました。その中にチェコ出身の建築家がもたらした影響を、建築家であり、多数の建築と文学に関する著書でも知られる名古屋工業大学名誉教授、若山滋さんが取り上げます。 ----------
目黒駅から細い道を山手線に沿って少し歩いたところに、回廊に囲まれた居心地のいいスペースがあり、適度な大きさの聖堂が建つ。聖アンセルモ教会である。 外観は、打ち放しコンクリートと煉瓦色塗装の組み合わせ、日本ではコンクリートに色を塗ると品が悪くなるが、この設計者はそうならない。 中に入ってみると、ほとんどが打ち放しコンクリートだが、その隙間から入る自然光が柔らかく、正面の祭壇は、円形を組み合わせたグラフィックの白壁を背景に十字架を吊る金色の台が建つ。建築の素朴と象徴の華麗がバランスしている。側廊の「十字架の道行」は、彫刻や壁画でイエスの死を演出する教会堂の見所だが、ここではそれを手だけの彫刻でシンプルに表現している。 設計者はアントニン・レーモンド。筆者の学生時代、丹下健三とともに最初に覚えた建築家である。名前に特徴があったからだ。 帝国ホテルを設計するフランク・ロイド・ライトの助手として来日し、日本に残って設計を続けた。他に、東京女子大学、南山大学、軽井沢聖パトリック教会などの作品がある。 東京カテドラルを設計した丹下健三には、この聖アンセルモ教会が念頭にあったと思われる。もちろん打ち放しコンクリートには、ル・コルビュジエの存在があるが、レーモンドが参考にしたのは、それ以前の、ル・ランシーのノートル・ダム教会を設計したオーギュスト・ペレであるようだ。 打ち放しコンクリートを現在のような精巧な美しさに高めたのは安藤忠雄の功績だが、レーモンドのコンクリートには、コルや丹下のような荒々しさではなく、質朴清冽な美しさがあり、それは彼が設計した木造建築における木の美しさにつうじるものだ。