5060億円市場を3社が競う牛丼チェーン。“松屋外交”で各国大使も絶賛する松屋の強さの秘密
顧客は満足しても店の負担は大きい定食メニュー
費用構造を見ると、原価率は33.6%と標準並みだが、外食の重要指標であるFL比率(売上原価と人件費の売上高に占める割合で60%以下が最適)は65.8%と標準を上回っており、ここに若干の問題があると推察する。 定食メニューがよく出るとオペレーションが煩雑になり、原価費用だけでなく調理作業も複雑になり、労務コストの負担も大きくなる。メニューの入れ替えが活発な松屋の商品政策は、顧客は満足しても店の負担は大きいのが実情である。商品が多品種化している中では、効果と効率の観点から、より原価率の安定と作業の効率化による人件費の削減を念頭に全体最適化を追求したほうがいいだろう。 【松屋フーズホールディングスの最新業績(2024年3月期決算)】 売上:1276億1100万円 営業利益:53億2200万円 営業利益率:4.2% 2024年3月期決算を見ると、売上は、既存店売上が前年比114.4%と、前年を上回ったことに加え、前年度以降の新規出店等による売上増加分が寄与したことにより、前年同期比19.7%増の1276億1100万円となった。原価率は前年の33.6%から34.2%と上昇している。
経営効率の面では吉野家に若干劣る
売上増加により固定費の比率が低下したことにより、販管費についても前年の65.0%から61.7%へと改善した。それらの結果で、営業利益はコロナ収束間もない頃ではあるが、前年比262.5%増の53億2200万円、経常利益は前年比52.7%増の59億7800万円となり、大幅に改善し、今後も期待できそうである。 財務基盤は総資産796億9700万円に対して自己資本414億300万円で自己資本比率52%と安定している。ただし、企業がどれだけ効率的に利益を上げているかを見る指標であるROEは6.84%と理想である10~20%には届いていない。ちなみに競合店である吉野家は9.71%と理想に近い状態であり、経営効率の面では若干劣っているようだ。 営業基盤である出店状況は現在、国内総店舗数1254店で、内訳はコア業態の松屋が1037店、とんかつの「松のや」が185店、その他32店である。松屋と松のやの併設店も人気だ。 ここ最近の物価高騰・円安・人手不足による賃金上昇・エネルギーコストの上昇などで、飲食店にとっては、費用の負担が利益を削り、店を持続させることが困難になっている。30年と長引いたデフレをさまざまな工夫で生き抜いた飲食店は、値下げすることは慣れていても、値上げすることに慣れていないために苦労している。 各店、値上げは段階的に進めているが、競合店とのし烈な競争から、値上げのタイミングには慎重になっており、採算が厳しそうだ。物価上昇に賃金上昇が追いつかず、少し高くなってもいいものが食べたいというお客さんは限られているなか、生き残りに知恵を絞っている。