最後の大使が語る「旧ユーゴスラビア」問題を伝える難しさ
隣り合う「セルビア人」の共和国?
両共和国の住民はともにセルビア人です。「スルプスカ共和国」ではセルビア人が圧倒的に多い(1991年は55%、2013年は83%)ので、国家の中に「スルプスカ共和国」を認めたのです。 つまり、名称も住民も同じであるのに、2つの異なる共和国に分かれているのです。しかも、スロベニアとスロバキアのようにお互いに離れた場所にあれば混乱は少ないかもしれませんが、隣り合わせになっているのです。これはもう、「紛らわしい」を通り越して「不思議な」状況です。 なぜ一緒にならないのでしょうか。同じスラブ人が各地へバラバラに移住していった結果、似てはいるが少しずつ違った名前の国や地域ができていると前述しましたが、「セルビア共和国」と「スルプスカ共和国」もその例で、たまたま隣り合わせになっているのだと考えられています。 このように紛らわしい名称が多い旧ユーゴですが、かつてその国に派遣され、日本との友好関係の増進に努めたものとして、この国の情勢が安定して日本にもっと知られるようになることを望んでいます。
----------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹