『室井慎次 敗れざる者』不器用な男の疑似家族もの!? 「踊る」シリーズの功績
1997年に放送開始されたフジテレビ系ドラマ「踊る大捜査線」から始まった「踊る」シリーズ。その12年ぶりの新作に選らばれたのは…なんと室井慎次!! 現在、映画『室井慎次 敗れざる者』が、全国公開されている。 【写真】『室井慎次 敗れざる者』場面写真 ちなみに室井慎次のスビンオフとしては『容疑者 室井慎次』(2005)が公開されているが、シリーズのなかでは黒歴史と言われることも多い作品だ。だからこそと言っていいのかわからないが、室井慎次のスピンオフを新作に選んだというのは、かなり冒険的な試みだといえるだろう。しかも警察組織を抜けてしまった後の物語になるとは。コンプライアンスや時代の流れを巧みに取り入れて、その時代、時代の警察組織をコミカルに、ときにシニカルに描いてきたシリーズだけに、完全に予想外の展開だった。 つまり室井が警察組織を内部から変えるという夢に破れた後を描いているのだ。しかし、全くできていないということはなく、室井が奮闘していたことは、周囲に伝わっており、無駄ではなかったことは何となく伝わっている。実際問題として、日本の警察組織内部の大改革となってしまうと、それはそれでファンタジーの世界になってしまうのだから、想いを後世に託したという余韻を残したのは、サブ&サブサブキャラクターに厚みをもたせることに成功している。 ひとりの不器用な男が、加害者・被害者親族を保護して、生活を共にするうちに心を浄化していく作品という点では、ドラマだと「明日の光をつかめ」や「さくらの親子丼」など、定番のテーマのひとつではあるが、不器用な男ひとりでというのは、なかなか珍しい。鍋やカレーなどの料理はできるが、お惣菜だけスーパーで買ってくるなど、細かい部分に拘りがあって、仕事人間であった室井慎次というキャラクターを解体していくという意味でも、見所多い作品である。 こういった作品の場合、主人公にもミステリアスな部分があって、エピソードを増すごとにわかっていくというのが定番ではあるが、室井の場合は「踊る」シリーズという基盤があるからこそ、良くも悪くもバックボーンが明かされた状態で展開されていくため、作品のテイストとしては良いのだが、「踊る」シリーズとして観ると困惑する部分もあるのと、子どもたちひとりひとりとのエピソードを丁寧に描き過ぎているため、尺的な問題が発生しているような感じがしてならない。