「おっ、ゲット・トゥゲザー!」の一言から始まった「はっぴいえんど」と大瀧詠一の『A LONG VACATION』。伝説のロックバンドと不朽の名作の原風景
細野と中田がギター、大瀧はドラムというトリオ、まさかの不合格
音楽の成り立ちやソングライターの作家性について、メロディーラインからアレンジや構造的なものを勉強しながら、音楽学校で教育を受けなくても、ロックは自分たちで曲作りができるということを模索していく。 やがて自作の曲やアイデアを互いに持ち寄って発表するくらいになったころ、3人は新宿にある『フォーク・ビレッジ』という店のオーディションを受けることにした。 「ランプポスト」というバンド名で、細野と中田がギター、大瀧はドラムというトリオでオーデションに挑んだ。 歌ったのはサイモン&ガーファンクルとアソシエイションのカヴァーだったが、あっさり不合格となったことで、「ランプポスト」の活動は凍結されることになった。 細野はそのすぐ後に松本隆と出会って「バーンズ」に参加を決め、約1年の活動を経てから、松本と共にサイケデリック・ロック色を打ち出した「エイプリル・フール」に加わって、1969年秋にプロデビューする。 しかし、エイプリル・フールは最初のアルバムを完成させたまではよかったが、アルバム発売を前にしてメンバーの考え方が揃わなくなり、急遽バンドを解散することになる。 そこでドラムの松本とベースの細野が「ばれんたいん・ぶるう」を始めたところに、大瀧が加わって来て合流してバンドの基礎が固まり、さらにギターの鈴木茂が参加して「はっぴいえんど」誕生に至るのである。
イラストレーター・永井博による絵本の企画から始まった
大瀧詠一の数ある仕事の中でも、特に有名なのがアルバム『A LONG VACATION(以下ア・ロング・バケイション)』だろう。これは当初、“夏のアルバム”として企画されたものだった。 きっかけとなったのは、CBSソニー出版から1979年7月25日に発売されたビジュアルブック。イラストレーター・永井博の絵本である。そこに『A LONG VACATION』と名づけたのが大瀧詠一で、絵本についてこのように語っている。 後にアルバム・ジャケットとして一世を風靡したあの絵は最初は絵本でした。中の文やこのタイトルを考えたのが私で、本には〈著者(文)大瀧詠一:(絵)永井博〉となっています。 デザインを担当したのが養父(やぶ)正一。このチームで80年代のナイアガラ(大瀧詠一のレーベル)のイメージを作り上げていくのだが、絵本が世の中に出た時点では、まだ音楽との関係はなかったという。 しかし、1980年の4月13日に『君は天然色』のレコーディングが始まった時、絵本の『A LONG VACATION』とイメージを同期させたアルバムの案が固まってきた。 そして大瀧の32歳の誕生日にあたる7月28日に、6枚のシングル盤と絵本をセットにして発売することになった。